ケルセチンは帝王切開後の痛みを軽減する
出典: Drug Design, Development and Therapy 2025, 19, 6009–6024
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.2147/DDDT.S526188
著者: Eman Mohamed Elmokadem, Dina Khaled Abou El Fadl, Ahmed M. Bassiouny, Maisa Mohamed Abd Elkhalik Mahmoud, Mohammed Samy, Nouran Omar El Said
概要: 帝王切開とは、通常の分娩である経膣分娩が困難と判断された際に、手術で出産する方法です。経膣分娩を断念する理由には、逆子のような赤ちゃん側が原因のケースと、子宮筋腫の手術歴のようなお母さん側が原因の両方があります。帝王切開は手術ですので、その後の母体の管理には、痛みの緩和が重要な位置を占めます。今回の研究では、帝王切開後の痛みの軽減にケルセチンが有効であることが、ヒト試験で実証されました。
この試験は、2024年11月から翌2025年2月にかけて、エジプトのカイロにあるMatareya Teaching病院の産婦人科にて、無作為化・二重盲検・プラセボ対照で行われました。帝王切開を受ける被検者80名をランダムに2群に分けました(無作為化)。片方の40名はケルセチン群として、手術の1時間前にケルセチン500 mgを摂取しました。もう片方の40名は、ケルセチンでないプラセボ(偽薬)を同じタイミングで摂取して対照群としました(プラセボ対照)。帝王切開の当日は勿論、全てのデータ解析が完了するまでは、各被験者がどちらの群に属するか、被験者本人にも医療従事者にも一切知らせません(二重盲検)。また、摂取するケルセチンおよびプラセボの見た目を統一して、ケルセチンかプラセボか判断できないように仕組まれています。
視覚アナログ尺度という方法で痛みを視覚化して、評価指標としました。10 cmの線を引き、その左端を「全く痛みがない」右端を「痛みが最大」に設定して、その時の痛みの状態を線状に示します。手術から2, 6, 12, 24時間後の計4回、視覚アナログ尺度で痛みを比較しましたが、4回全てでケルセチン群が対照群より痛みが軽いことが判明しました。2時間後の視覚アナログ尺度は、ケルセチン群が5 cmで対照群が6.5 cmでした。以下、6時間後: 3 vs. 6 cm、12時間後: 2.5 vs. 5 cm、24時間後: 2 vs. 3 cmとなっており、いずれもケルセチン群の方がより左寄りに位置され、痛みの軽減を示しています。これらを統計的に処理すると、4回のデータはいずれも、ケルセチンが痛みを低減した確率が99.9%で、低減しないとする確率は0.1%でした。
ケルセチンでも完全に痛みを取り除けませんので、我慢できない時は鎮痛剤に頼ります。鎮痛剤を最初に要した時間は、ケルセチン群が手術から3.9時間後で、対照群が2.7時間後でした。別の見方をすると、手術前にケルセチンを摂取すれば約4時間は鎮痛剤に頼らないで済みますが、対照群は約2時間半で鎮痛剤が必要になった、と解釈できます。このデータも統計処理にて、ケルセチンが有効である確率が99.9%で、有効でない確率は0.1%と結論できました。
痛みを緩和した中心は鎮痛剤であって、ケルセチンは痛みの軽減を補助した立場です。一般に薬の過剰投与は危険ですが、中でも鎮痛剤の場合、特に危険性が高いことが知られています。ケルセチンによって鎮痛剤の服用量を低減できれば、過剰投与のリスクを回避できます。従って、帝王切開にてケルセチンが非常に大きな貢献をしたヒト試験でした。
キーワード: ケルセチン、帝王切開、痛み、視覚アナログ尺度、ヒト試験