ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンは熱ストレスからブロイラーの肝臓を守る

出典: Journal of Thermal Biology 2025, 131, 104204

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306456525001615

著者: Longfei Ma, Huijuan Liu, Zhongyu Ge, Bing Bai, Jianle Zhao, Shun Chen, Binbin Zhou, Jiaqi Zhang, Tian Wang, Chao Wang

 

概要: 以前ケルセチンがメタボリックシンドロームを改善する話題を紹介しました。メタボリックシンドロームの主な原因に過食・運動不足・過度の飲酒・喫煙などが挙げられますが、暑さが直接の原因となることはありません。今回の研究では、暑い場所に置いたブロイラーの肝臓に脂肪が蓄積して、メタボリックシンドロームの症状を呈しました。人間に比べてブロイラーの弱さを示す格好の事例とも言えますが、ルチンを投与したブロイラーは暑さにもかかわらず、正常な肝臓を維持したことが発見されました。ルチンとはケルセチンの仲間で、ケルセチンに2個の糖が結合しています。

ブロイラー192羽を64羽ずつ3群に分け、以下の条件で21日間飼育しました。1) 熱ストレスなしで通常の餌、2) 熱ストレスを掛け通常の餌、3) 熱ストレスを掛け500 mg/kgのルチンを含む餌。1)は常に22℃に置きますが、2)と3)は毎日10時から18時までの8時間を34℃に晒します。22日後に肝臓の状態を調べたところ、中性脂肪が1) 120 nmol/mg、2) 170 nmol/mg、3) 115 nmol/mgとなっていました。コレステロールは善玉と呼ばれるHDLと悪玉のLDLに分けられ、血管の壁に溜って高血圧や動脈硬化の原因となるのがLDL(悪玉)で、LDLを血管から取り除くのがHDL(善玉)です。肝臓中のHDL は1) 23 nmol/mg、2) 17 nmol/mg、3) 22 nmol/mg で、一方のLDL は1) 12 nmol/mg、2) 14 nmol/mg、3) 12 nmol/mg でした。2)では1)と比べてHDLが減少し、中性脂肪とLDLは上昇しており、典型的なメタボリックシンドロームの症状を呈しました。1)と3)を比較すると、データに違いは殆どありません。よって、熱ストレスはブロイラーにメタボを誘発しましたが、ルチンの投与でメタボを防げたことを意味します。

脂肪は良く燃え、食物中の脂肪分はカロリーが高いと言われます。脂肪が優れたエネルギー源であることを意味した表現ですが、脂肪の蓄積はエネルギーとして使われていない証拠です。そこで、体内で脂肪をエネルギーに変換する、発電所のような役割のミトコンドリアに着目してルチンがメタボを防ぐ仕組みを解明しました。ミトコンドリアは細胞の中にある小器官の一つですが、独自の遺伝子を持っておりミトコンドリアDNAと呼ばれます。余談ですが、このミトコンドリアDNAは母親からのみ受け継がれ、父親からは受け継がれない特殊な性質を持つ遺伝子です。肝臓中のミトコンドリアDNAが複製を作る頻度を比較すると、2)では1)の約半分でしたが、3)では1)を凌駕して1.5倍になっていました。この結果は、ルチンがミトコンドリアDNAの複製を促進するので、熱ストレスで半減しても補って余る位であったと解釈できます。ミトコンドリアDNAの複製はミトコンドリアの数に直結しますので、脂肪をエネルギーに変換する場所が半減したと言えます。その結果、エネルギー源として使われなくなった脂肪が、肝臓に蓄積してしまいました。

ブロイラーは34℃でメタボを発症しましたが、昨今の猛暑日はもっと気温が上がります。養鶏業者さんの苦労は並大抵ではありませんが、ルチンが強い味方になりそうです。

キーワード: ブロイラー、熱ストレス、メタボリックシンドローム、肝臓、ルチン、ミトコンドリア