ケルセチンによるヘルシーエイジングの実現
出典: RSC Pharmaceutics 2025, 2, in press
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/pm/d5pm00112a
著者: Akshay Kumar, Stuti Bhagat, Kareena Moar, Sanjay Singh, Pawan Kumar Maurya
概要: ヘルシーエイジングとは、健康的に年齢を重ねて行くことを意味します。たとえ加齢に伴って身体機能は低下しても、健康な状態の継続は可能という考えです。最近、「健康寿命」という言葉をよく耳にしますが、ヘルシーエイジングが継続する期間と言い換えることができます。今回の研究は、ケルセチンがヘルシーエイジングを実現する可能性が、赤血球を用いる実験で示されました。
加齢で身体機能が低下したり病気になり易くなる原因は様々ですが、主要因の一つに酸化ストレスが挙げられます。酸化ストレスとは体に錆ができる様なもので、体の錆が組織を傷つけます。従って、加齢に伴う酸化ストレスを軽減できれば、着実にヘルシーエイジングが近づきます。
31名の健康な人から採血して、赤血球を分離しました。31名の内訳は、20~35歳の若年層が11名、36~60歳の中年層が14名、60歳以上の高年層が6名です。それぞれの赤血球を分析して、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒドという物質の濃度を測定しました。マロンジアルデヒドとは、脂肪分が酸化ストレスを受けた際に生じる残骸です。若年層: 0.23 nmol/mL、中年層: 0.38 nmol/mL、高年層: 0.58 nmol/mLであり、加齢が酸化ストレスを増やす裏付けが得られました。次に赤血球に活性酸素種を加えて、酸化ストレスを負荷しました。若年層: 0.35 nmol/mL、中年層: 0.44 nmol/mL、高年層: 0.74 nmol/mLであり、若年層や中年層の場合はウィルス感染や毒物による酸化ストレスのシミュレーションと見なせます。一方、高年層の場合は、ウィルスや毒物だけでなく更に年齢を重ねて酸化ストレスが増え続く状態も含みます。酸化ストレスを与えた状態で、各赤血球にケルセチンを3 μg/mLの濃度で投与したところ、若年層: 0.24 nmol/mL、中年層: 0.36 nmol/mL、高年層: 0.61 nmol/mLとなり、酸化ストレスを与える前の状態に回復しました。従って、マロンジアルデヒドの初期値は年齢により違い、高齢になるに従い増加するものの、酸化ストレスによる上昇を回復するケルセチンの効果は年齢を問わないことが分かりました。
次に、マロンジアルデヒドの代わりに、グルタチオンという活性酸素種を除去する物質を測定しました。活性酸素種が酸化ストレスをもたらすので、それを除去するグルタチオンは値が高い方が酸化ストレスが低く、マロンジアルデヒドとは反対の挙動を示します。実際、初期値では若年層: 8.2 mg/mL、中年層: 6.2 mg/mL、高年層: 4.0 mg/mLであり、加齢によりグルタチオンが低下しています。先程と同様に、活性酸素種で酸化ストレスを与えた後ケルセチンを投与しますが、グルタチオン濃度の変化は、若年層: 6.0→8.3 mg/mL、中年層: 4.8→6.4 mg/mL、高年層: 2.5→5.0 mg/mLでした。面白いことに、ケルセチンは3グループとも初期値より高いグルタチオン濃度を与えました。
以上、指標としたマロンジアルデヒドとグルタチオンの相対的な値には年齢層により差があり、加齢による酸化ストレスを反映していました。しかし、ケルセチンが酸化ストレスを軽減する効果は、年齢に関係なく全てのグループで有効でした。この実験事実は、ケルセチンがヘルシーエイジングを実現する可能性を強く示唆しています。
キーワード: ヘルシーエイジング、加齢、酸化ストレス、ケルセチン、赤血球、マロンジアルデヒド、グルタチオン