マウスのニコチン摂取に伴う快感は、ケルセチンが打ち消す
出典: Journal of Basic and Clinical Physiology and Pharmacology 2021, 32, 327–333
https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/jbcpp-2020-0418/html
著者: M. Rahmadi, D. Suasana, S. R. Lailis, D. M. N. Ratri, C. Ardianto
概要: 改めて述べるまでもなく、煙草による健康被害は世界的な問題です。煙草を原因とする世界中の死者は、毎年640万人と推計されています。喫煙者の約7割が禁煙を望みながら、成功率は約1割という現実が示すように、確実に効く禁煙補助剤がないのが現状です。
なぜ、煙草が止められないのか?喫煙する際の快感を、脳が忘れられないためです。それならば、煙草の主成分であるニコチンを摂取した時の快感を失わせる物質こそが、今世界中で求められている禁煙補助剤の可能性を秘めています。今回の研究では、ケルセチンが相当することを、マウスを用いて検証されました。
壁が白く床が滑らかな箱と、反対に壁が黒く床がゴツゴツとした箱を用意し、2つの箱をつなぎます。ここにマウスを一定時間入れ、どちらにいる時間が長いか、すなわち好みの場所を調べます。次に、好みの場所で生理食塩水を注射し、好みでない場所で薬物を注射します。この場所を変えた注射を3日間続け、その後のマウスの行動を観察します。薬物で快感を得ていれば、マウスは薬物を注射する場所を学習したので好みの場所が変わり、薬物を注射した方にいる時間が長くなります。この一連の実験は、条件付け場所嗜好性試験と呼ばれ、依存性がある薬物の特定に使われます。
さて、この薬物にニコチンを使うと、好みの場所が逆転したことは勿論、ニコチンを注射した場所にいる時間が長くなることは言うまでもありません。ところが、ニコチンを注射する30分前にケルセチンを飲ませたマウスでは、好みの場所が逆転しませんでした。この実験事実は、高い依存性のニコチンでも、その摂取した時の快感がケルセチンで打ち消されたことを意味します。結論として、ケルセチンは有用な禁煙補助剤として使える可能性を秘めています。
キーワード: ケルセチン、ニコチン、条件付け場所嗜好性試験、禁煙補助剤