腎線維化の抑制に基づく、ケルセチンによる慢性腎臓病の治療
出典: The American Journal of Chinese Medicine 2025, 53, 1913-1931
https://www.worldscientific.com/doi/abs/10.1142/S0192415X25500715
著者: Xian-Li Gao, Ting Chen, Shao-Ling Lin, Cai-Yun Guo, Wen-Jun Li, Wen-Jun Ning, Xiao-Ying Zhan, Huan Jing, You-Ling Fan, Hong-Tao Chen, Jun Zhou
概要: 慢性腎臓病とは、腎機能の低下が3か月以上継続した状態です。日本人の慢性腎臓病の患者数は約2000万人で、成人の5人に1人に相当しますので、新たな国民病とも言われます。慢性腎臓病の進行の指標として、組織が線維状に変化して硬くなる腎線維化があります。組織が硬くなると腎機能が低下するため、腎線維化が深刻であれば慢性腎臓病はより進行しています。よって、慢性腎臓病の治療には腎線維化の抑制が必要ですが、今回の研究では、ケルセチンがマウスの腎線維化を改善しました。また、ケルセチンが腎線維化を抑制する仕組みの一部も解明されました。
マウス24匹を6匹ずつ4群に分け、1) 何も処置しない比較対照、2) 腎毒性物質のみ投与、3) ケルセチンのみ投与、4) 腎毒性物質とケルセチンの両方投与の各処置を同時に行いました。処置をした14日後に、各マウスの腎組織を調べました。腎線維化に関係する蛋白質である、I型コラーゲンとフィブロネクチンという2種類の蛋白質の陽性領域を比較しました。なお、両蛋白質とも腎臓に限らず殆ど全ての組織に存在する蛋白質ですが、該当する組織が線維化すると過剰に蓄積することが知られています。特にI型コラーゲンは骨の主成分ですので、過剰に蓄積した腎臓は骨のように硬くなるとイメージできます。I型コラーゲンの陽性領域は1) 2%、2) 18%、3) 2%、4) 9%でした。フィブロネクチンの陽性領域は1) 1%、2) 29%、3) 1%、4) 13%でした。1)は正常群で2)は慢性腎臓病の状態の再現と見なせますが、1)と2)を比較すると腎線維化が顕著に現れました。1)と3)は同じ数値ですので、ケルセチンは正常なマウスの腎線維化に影響しません。注目すべきは2)と4)の違いで、慢性腎臓病による腎線維化の指標は二つとも、ケルセチンが約半分に低減しました。
次に、フェロトーシスという細胞死を調べました。フェロトーシスとは鉄が媒介して、体内の脂質が酸化された過酸化脂質が誘発する細胞死ですが、腎線維化で活性化することが知られています。そこで、フェロトーシスを媒介する鉄の濃度、誘発する過酸化脂質の量、フェロトーシスの実行本体であるACSL4という蛋白質の陽性領域を比較しました。1) 鉄濃度: 180 μmol/kg、過酸化脂質: 1.6 μmol/g、ACSL4: 3%、2) 鉄濃度: 260 μmol/kg、過酸化脂質: 2.6 μmol/g、ACSL4: 18%、3) 鉄濃度: 180 μmol/kg、過酸化脂質: 1.6 μmol/g、ACSL4: 3%、4) 鉄濃度: 210 μmol/kg、過酸化脂質: 2.0 μmol/g、ACSL4: 5%でした。ゆえに、2)の慢性腎臓病状態では1)の正常と比べてフェロトーシスが活性化しており、3)は1)同じで、正常マウスにおけるケルセチンによる影響がないことが分かりました。そして2)と4)を比較すると、慢性腎臓病で活性化したフェロトーシスはケルセチンが阻害したことが分かりました。
以上、慢性腎臓病の治療における重要な課題である腎線維化の抑制は、ケルセチンが解決策となりました。ケルセチンが腎線維化の抑制した仕組みとして、フェロトーシスの阻害が明らかになりました。
キーワード: 慢性腎臓病、ケルセチン、腎線維化、フェロトーシス