ケルセチンを含むフィルムを用いる包装は、食品の保存に適している
出典: Food Research International 2025, 221, 117335
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0963996925016734
著者: Martyna Krysa, Monika Szymańska-Chargot, Agnieszka Adamczuk, Giorgia Pertile, Magdalena Frąc, Artur Zdunek
概要: 同じ食品であっても、包装する材料次第で賞味期限が大きく違ってきます。包装材料が空気中の水分を通しやすければ、その分早く湿気ることになります。光を通しやすい素材なら、中身の劣化が早くなります。今回の研究では、セルロースフィルムにケルセチンを添加すると、食品保存に適した性質が強化されました。ちなみに、セルロースは植物の構成成分であり、土壌中の微生物が分解する生分解性を有しているため、プラスチックのような環境汚染の要素が全くないのが特徴です。食品包装に汎用されている素材はプラスチックが主流ですが、プラスチックに代わる環境にやさしい素材としてセルロースが注目されています。
フィルムにケルセチンを添加するにあたり、5%と10%の2通りを試しました。まずは、水分の通しやすさの改良です。空気中の水分を遮断するには、疎水性のプラスチックが適しており、親水性のセルロースは適していません。しかし、冒頭で触れた環境汚染を考慮すると、セルロースの性質の改良が最適解となりそうです。空気中の水分は水蒸気の形で存在するため、単位時間(1秒)あたり、単位面積(1 m2) あたりに通過する水蒸気の量をナノグラム(ナノは10億分の1)で表示した「水蒸気バリア」で比較しました。ケルセチン未添加のフィルムの水蒸気バリアは16 ngでしたが、5%添加で15 ng、10%添加で13 ngと着実に水蒸気バリアが減少しました。余談ですが、ケルセチンに糖が結合したルチンを10%添加すると逆効果で、水蒸気バリアが23 ngに増えました。
次に、光遮断性を比較しました。光は波長が短い順に紫外線・可視光線・近赤外線と並べられます。セルロースの性質として紫外線は100%カットしますが、波長が長くなると光遮断性は右肩下がりの挙動を示し、近赤外線の遮断性は80%でした。そこでケルセチンの出番ですが、5%添加で近赤外線の遮断性が90%に向上しました。驚くべきことに、ケルセチンの10%添加は紫外線から近赤外線に至るまで100%をキープして、光遮断性が完璧になりました。
最後に、ケルセチンの重要な性質である抗菌活性の活用です。空気中には、黄色ブドウ球菌という細菌が存在します。通常に呼吸で吸い込む分には問題はありませんが、食品に空気が接触して黄色ブドウ球菌が繁殖すると、厄介なことになります。黄色ブドウ球菌が産出する毒素が食中毒の原因となり、下痢や吐き気を誘発します。従って、黄色ブドウ球菌に抗菌活性を示す包装が必要ですが、残念なことにセルロースに抗菌活性はありません。しかし、ケルセチンを添加したことで、しかも5%と10%の両方で、フィルムの表面に黄色ブドウ球菌が繁殖しない領域を認めました。
以上、ケルセチンの添加により、セルロースフィルムは食品保存に適した性質に変わりました。ケルセチンは、セルロースフィルムの水蒸気バリアを改善し、光遮断性を完璧にし、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を新たに付加しました。
キーワード: ケルセチン、セルロースフィルム、水蒸気バリア、光遮断性、抗菌活性、食品保存