ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンが潰瘍性大腸炎を改善する新たな仕組み

出典: Current Research in Food Science 2025, 11, 101183

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S266592712500214X

著者: Liang Lei, Jing Wang, Juanjuan Wang, Wenjuan He, Tao Wu, Jing Li, Xiaobin Bi, Mei Mei, Xinlei Guan, Xiaoqiang Zhu

 

概要: 潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に炎症が起こり、下痢・腹痛・血便を繰り返す病気です。遺伝・環境・日常生活のいずれもが複雑に関係しますが、正確な原因は不明です。特に重症化した際の治療法は確立されておらず、潰瘍性大腸炎は難病に指定されています。潰瘍性大腸炎の患者数は世界に約500万人と推計されており、確実な治療法が渇望されています。今回の研究では、ケルセチンが潰瘍性大腸炎のマウスに改善効果を示し、腸内細菌叢を介した仕組みも明らかになりました。以前、ケルセチンが好中球細胞外トラップを阻害して潰瘍性大腸炎を改善した話題を紹介しましたが、今回は別の角度から検証した研究です。

マウス20匹を6, 7, 7匹の3群に分け、1) 何も投与しない比較対照、2) 炎症誘導物質のみ投与、3) 炎症誘導物質とケルセチンの両方を投与の各処置を行いました。ケルセチンは1日1回100 mg/kgの投与を2週間連続しました。後半の1週間には、炎症誘導物質の投与を2)と3)に行いました。投与期間が終了した7日後に、体重の減少、便の柔らかさ、血便の状況を比較しました。異常がなければ0、軽症なら1、中度なら2、重症なら3として、3項目を合計した病態スコアを指標にします。正常群と見なせる1)は当然ながら0ですが、2)は6.5、3)は2.8が記録され、潰瘍性大腸炎の誘発とケルセチンによる改善がそれぞれ示されました。また、腸の長さは1) 6.4 cm、2) 3.0 cm、3) 4.5 cmであり、潰瘍性大腸炎は腸を大幅に短くしますが、ケルセチンがこれを良好に抑制しています。

次に腸内細菌叢の関与を調べました。腸内細菌叢とは腸に生息する細菌類のことですが、1)~3)で分布が大きく異なっていたため、腸内細菌叢の関与が示唆されました。予め4種類の抗生物質を投与して、腸内細菌叢を枯渇したマウス、すなわち腸の細菌類を死滅させたマウスを用いて、先程と同様の実験を行いました。結果は、2)と3)の病態スコアが5.9と5.7で、腸の長さは両方とも5.3 cmで、ケルセチンの改善効果を認めませんでした。よって、第一の実験で見られたケルセチンによる潰瘍性大腸炎の改善には、腸内細菌叢が関与していることが明らかになりました。そこで、腸内細菌叢が作る物質(代謝物と呼ばれています)を探しました。第一の実験における各マウスの糞便を分析したところ、3)由来の糞便でイソバニリン酸という物質が顕著に増えており、1)および2)の約15倍でした。

最後に第一の実験をアレンジして、ケルセチンに代わりにイソバニリン酸を投与する以外は全く同じ条件で第三の実験を行いました。結果は、2)と3)の病態スコアが8.3と3.0で、腸の長さは4.5 cmと5.5 cmであり、イソバニリン酸にもケルセチンと同等の改善効果がありました。

以上の3実験の結果、ケルセチンの投与→腸内細菌叢が変化→変化した腸内細菌叢がイソバニリン酸を作る→潰瘍性大腸炎が改善される、という因果関係が明らかになりました。冒頭に述べたように、潰瘍性大腸炎は難病に指定されていますが、ケルセチンが病態スコアを改善したのは希望の光と言えましょう。

キーワード: 潰瘍性大腸炎、ケルセチン、腸内細菌叢、イソバニリン酸