ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

カドミウムによる急性肺損傷を、ケルセチンが改善する仕組み

出典: Journal of Biochemical and Molecular Toxicology 2025, 39, e70463

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jbt.70463

著者: Zhenjie Gao, Dadi Shu, Yuchen Li, Zhaoming Chen, Yunzhi Sun, Qiongying Hu, Chuantao Zhang

 

概要: カドミウムは有害物質として知られていますが、細かい粒子として空気中に存在するため、肺の健康を損ないます。肺炎や外傷などで12~48時間に急激な呼吸困難になることを急性肺損傷と呼びますが、カドミウムで汚染された空気を継続して吸い込むことも原因となります。今回の研究では、カドミウムが誘発したラットの急性肺損傷をケルセチンが改善することが見出され、その仕組みも一部が解明されました。

ラット21匹を7匹ずつ3群に分け、1) カドミウムを投与しない正常群、2) カドミウムのみ投与、3) カドミウムとケルセチンを同時投与の各処置を2週間継続しました。カドミウムの投与は、1日1回5 mg/kgの塩化カドミウムを鼻から吸入して、肺に到達させました。ケルセチンの投与は、カドミウムと同じタイミングで50 mg/kgの用量としました。処置期間が終了した後、肺組織を比較しました。その結果、2)の肺はむくんでいるため正常の1)より大きなサイズで、急性肺損傷の症状を呈しました。一方、3)は2)よりも1)に近く、ケルセチンがむくみを軽減しています。肺組織を構成する細胞に着目すると、1)の99%以上が正常で細胞死は1%未満でしたが、2)では25%に細胞死が見られました。3)の細胞死は3%であり、ケルセチンの改善効果を示しています。

酸化ストレスが急性肺損傷を悪化します。そこで、各ラットの肺の酸化ストレスを調べました。酸化ストレスとは、空気中の酸素がより反応性の高い状態に変化した活性酸素種が組織を傷つける現象で、その結果、むくみや細胞死が見られます。酸化ストレスの犯人とも言うべき活性酸素種を除去する酵素にSODという抗酸化物質がありますが、1) 56 U/mg、2) 27 U/mg、3) 50 U/mgでした。また、酸化ストレスの結果生じるマロンジアルデヒド(酸化された脂肪の残骸)の量は、1) 8 mmol/mg、2) 30 mmol/mg、3) 12 mmol/mgでした。以上のデータは、カドミウムが肺組織に酸化ストレスを与え、急性肺損傷を誘発したことを物語ります。ケルセチンは酸化ストレスを軽減するため、肺組織のむくみや細胞死が減少しました。従って、ケルセチンが急性肺損傷を改善する仕組みは、酸化ストレスの軽減にある考え、活性酸素種を除去するSODに着目しました。

SODを作るにはNrf2という蛋白質が働く必要がありますが、Nrf2に結合するKeap1という別の蛋白質があります。Keap1が結合しているとNrf2は働くことが出来ませんが、一旦Keap1が離れるとNrf2は機能してSODを作ることが出来ます。いわばKeap1が結合しているとスイッチオフの状態ですが、Keap1を離すことがオンを意味します。そこで各マウスの肺における遊離したNrf2とKeap1を測定したところ、2)は1)の1/4程度でしたが、3)では1)近くまで回復しました。このデータは、2)のNrf2は3/4がKeap1が結合してスイッチオフだったため、作れるSODが少ないことを意味します。SODの減少は活性酸素種がやりたい放題ですので、急性肺損傷を悪化しました。

以上、ケルセチンが急性肺損傷を改善する仕組みとして、SOD合成のスイッチオンがありました。SODが回復すると活性酸素種に対抗できるため、酸化ストレスが軽減されました。

キーワード: カドミウム、急性肺損傷、ケルセチン、酸化ストレス、SOD、Nrf2/Keap1