ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンとα-リポ酸による角膜血管新生の治療

出典: Journal of Drug Delivery Science and Technology 2025, 114, 107538

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1773224725009414

著者: Heybet Kerem Polat, Nasıf Fatih Karakuyu, Sedat Ünal, Yasin Turanlı, Esra Pezik, Gülşah Usta Sofu, Emine Sarman

 

概要: 角膜とは眼の黒い部分のことで、光を通す機能ゆえに血管がありません。通常の器官は血液が酸素を運搬しますが、角膜に必要な酸素は涙が供給します。コンタクトレンズの長期使用などで角膜に酸素が不足すると、隣接する結膜(白い部分)から血管が伸びてきて角膜に侵入します。この結膜から角膜に向けた血管の侵入が、角膜血管新生です。角膜血管新生は角膜が濁る以外には、痛みや痒みと言った自覚症状がなく、発症しても気付きが遅れがちです。しかし、一度濁った角膜は元に戻らず、濁りは光を通す角膜の働きを妨げるため、角膜血管新生の進行で視力障害が起こります。今回の研究では、α-リポ酸と(ケルセチンに糖が2個結合した)ルチンとの組合せが、ラットの角膜血管新生を改善しました。α-リポ酸とは、ほうれん草やトマトに含まれるビタミンと似た働きをする物質です。

角膜血管新生に限らず隣接する組織に血管が侵入する現象は、血管の内側を構成する血管内皮細胞の異常増殖が原因とされます。ちなみに、角膜の酸素不足は同細胞の異常増殖を増強する要因です。そこで、血管内皮細胞の異常増殖を抑制する働きが知られているα-リポ酸とルチンに着目しました。α-リポ酸とルチンをある種の医薬品用添加剤に溶かすと25℃では液体でしたが、34℃以上ではゲルを形成しました。この事実は、液体として点眼した後は眼の中でゲル化して、ゲルから角膜へα-リポ酸とルチンが運搬されることが期待できます。

ラットの右眼の角膜に、水酸化ナトリウムを滲み込ませたろ紙を30秒当てて損傷を誘発して、角膜血管新生を作りました。左眼は損傷せず、正常な状態を維持します。その後5群に分け、1) 治療しない、2) 標準治療薬であるデキサメタゾンの点眼、3) α-リポ酸とルチンの溶液を点眼(ゲル形成なし)、4) α-リポ酸とルチンを含まないゲル基剤の点眼(ゲル形成あり)、5) α-リポ酸とルチンを含むゲル基剤の点眼(ゲル形成あり)の処置を1週間継続しました。角膜の血管の状態をルーペで観察して、角膜血管新生の程度をランク付けしました。0: 血管なし、1: わずかに血管を認める、2: 中程度の血管、3: 血管が角膜全体に存在、4: 角膜全体で網目を形成の点数をつけます。当然ながら、全てのラットの左眼は0でした。右眼は1) 3.2、2) 1.3、3) 2.0、4) 3.2、5) 1.4でした。1)と4)は同じレベルですが、ゲル形成だけでは治療していないのと同じでした。ゆえに適切な有効成分が必要です。1)と2)を比べるとデキサメタゾンが効いていますが、標準治療薬ですので効果を示して当然です。従って、水酸化ナトリウムを用いた実験が、角膜血管新生の薬効評価モデルとして適切であることの証明になりました。1)3)5)を比べると、α-リポ酸とルチンの組合せが有効成分として機能していることが分かり、ゲル形成が有効性を増強しています。特に2)と5)が同レベルですから、ゲル形成により、α-リポ酸とルチンが標準治療薬と同等の治療効果を示したことを意味します。

デキサメタゾンは強力なステロイドですので、副作用が懸念され、長期間使えない欠点があります。α-リポ酸とルチンは野菜や果物に含まれる成分ですので、長期間の使用に何ら問題がありません。同等の治療効果を示し、かつ、欠点を克服したので今後の展開が楽しみです。

キーワード: 角膜血管新生、ルチン、α-リポ酸、ゲル形成、デキサメタゾン