ルチンと細胞外小胞で、アルコールによる肝機能の低下を改善する
出典: Food Science and Human Wellness 2025, 14, in press
https://www.sciopen.com/article/10.26599/FSHW.2025.9250781
著者: Zhenjie Gao, Dadi Shu, Yuchen Li, Zhaoming Chen, Yunzhi Sun, Qiongying Hu, Chuantao Zhang
概要: 乳酸菌は、腸の中で健康に役に立つ働きをします。しかし、食物で摂取した乳酸菌の殆どは胃酸で死滅しまい、腸には届き難いのが現実です。今回の研究では、乳酸菌が産出する細胞外小胞が、アルコールで低下した肝機能を回復することが発見され、腸に届かないジレンマを解決しました。また、細胞外小胞による肝機能の回復効果は、ルチンが増強しました。細胞外小胞とは菌類や細胞が分泌する膜で囲まれた小さな球で、ルチンはケルセチンの仲間で、糖が2個結合した構造です。
ルチンを0.6 mg/mLの濃度でアルカリ性の水に溶かし、ここに乳酸菌から単離した細胞外小胞を加えました。時間をかけてアルカリ性を酸性に傾けると、ルチンが水から細胞外小胞の中に取込まれ、最終的に93%のルチンが入りました。マウス24匹に5%のアルコールを含む餌を10日間与えて、肝機能障害を誘発しました。餌の内容には4種類あり、1) 通常の餌にアルコールのみ添加、2) アルコールとルチンを添加、3) アルコールとルチンを含まない細胞外小胞を添加、4) アルコールとルチンを含む細胞外小胞を添加となります。ルチンや細胞外小胞は、餌1 kg 当たり10 gを配合しました。これとは別に6匹のマウスを用意して、アルコールを含まない通常の餌で飼育して、比較のための正常群としました。
人間の健康診断と同様に、血液中のASTとALTの濃度を肝機能の指標としました。本来ASTとALTは、肝臓に存在してアミノ酸を作る働きをする筈の酵素ですが、肝組織が破壊されると血液に流れ出して、血中濃度が上昇します。従って、これらの血中濃度が高ければ、肝機能の低下を示します。正常なマウスの血中ASTは12 U/Lでしたが、アルコールを与え続け治療をしない1)では84 U/Lに上昇しました。対して2) 65 U/L、3) 43 U/L、4) 21 U/Lというデータが得られ、2)のルチンはそれなりに改善しても、 細胞外小胞の3)には及ばず、ルチンを含む細胞外小胞である4)はさらに良好な結果でした。特に4)のAST値は正常に近いレベルに回復しました。1)と2)の差は約20 U/Lでありルチンが下げたASTですが、3)と4)の差も約20 U/Lです。3)と4)との違いはルチンの有無ですが、ルチンの関与分がそのまま足されています。ルチンと細胞外小胞のそれぞれの単独効果を足し合せた値が、組合せの効果として観察されました。このように独立して働いた数値の合計が組合せで観察された時、「相加効果」という言い方をします。面白いことに、ALTでも同様の傾向が見られました。正常群のALTが10 U/Lのところ、1) 70 U/L、2) 62 U/L、3) 37 U/L、4) 24 U/Lでした。1)と2)の差の12 U/Lは、3)と4)の差である13 U/Lとほぼ同一であり、ルチンと細胞外小胞の相加効果はALTでも認めました。
乳酸菌が肝機能を改善するなら、乳酸飲料で割ったハイサワーをいくら飲んでも肝臓を壊さない理屈ですが、現実には難しいでしょう。しかし、乳酸菌由来の細胞外小胞であれば、それに近いことが実現できそうな結果でした。しかも、細胞外小胞の中にルチンが入れば相加効果まで期待できます。
キーワード: 乳酸菌、細胞外小胞、ルチン、肝機能、アルコール、相加効果