ケルセチンは微小粒子状物質PM2.5に起因するインスリン抵抗性を軽減し、 脂肪細胞の炎症応答とインスリンシグナルを改善する
出典: Environmental Science and Pollution Research 2022, 29, 2146–2157
https://link.springer.com/article/10.1007/s11356-021-15829-8
著者: Jinjin Jiang, Guofu Zhang, Min Yu, Juan Gu, Yang Zheng, Jinxia Sun, Shibin Ding
概要: PM2.5とは、大気中に浮遊している2.5 μm以下の小さな粒子のことです。すなわち、髪の毛の太さの約1/30程度ですので、吸い込むと肺に悪影響を及ぼします。意外かもしれませんが、PM2.5が糖尿病を悪化させることも、よく知られています。
今回の研究は、PM2.5に起因する糖尿病の症状がケルセチンで改善されることを、マウスを用いる実験で検証しました。
PM2.5の影響を調べるために、毎日6時間 PM2.5に晒したマウスと、晒さないマウスを比べます。18週間後、前者は後者と比べて空腹時の血糖値が著しく上がり、典型的な糖尿病の症状を呈しました。正常であれば、血中の糖はインスリンという物質により全身の細胞に取込まれ、エネルギーとなります。糖尿病になるとインスリンが働かず、インスリン抵抗性と呼ばれます。その結果、糖はエネルギーとして使われず、血中に多く残ります。血糖値が上がるのは、このためです。
またPM2.5の影響として、内臓白色脂肪組織では、炎症を誘導する物質が激増しました。しかも、炎症の大元となるNLRP3インフラマソームという蛋白質が増えたことも確認されました。
PM2.5に晒す前にケルセチンを飲ませたマウスも、比較の対象としました。面白いことに、ケルセチンを飲むとPM2.5の悪影響を受けず、糖尿病の症状や内臓白色脂肪組織の炎症は見られず、PM2.5に晒さないマウスと同程度でした。注目すべきは、ケルセチンがNLRP3インフラマソームの産出を阻害したことです。ケルセチンは、炎症の大元を遮断する働きがあり、その結果、PM2.5よる糖尿病の悪化に歯止めを掛けたことになります。
キーワード: ケルセチン、PM2.5、糖尿病、NLRP3インフラマソーム