ケルセチンが心不全を軽減する仕組み
出典: Frontiers in Nutrition 2025, 16, 1674507
https://www.frontiersin.org/journals/nutrition/articles/10.3389/fnut.2025.1674507/full
著者: Mingxia Ma, Xintai Jiang, Weiqian Liu, Jin Xue, Yuan Yuan, Xiaoyan Zhi, Jiayan Feng, Yaolin Long, Yang Li, Zhijun Zhang, Xiaohui Wang, Li Wang
概要: 心不全とは、心臓が全身に血液を送り出すポンプとしての機能が低下した状態です。従って心不全は病名ではなく、心機能が弱まった症状をひっくるっめて呼ぶ症候群と言えます。必要な酸素や栄養分は血液が運ぶため、心不全になると疲れやすくなり、歩いている途中で息切れが起こります。ケルセチンが心不全を改善した話題は以前にも紹介しましたが、今回の研究では、改善の仕組みを解明する目的で行われました。
心不全との関連が指摘されている、β1AAという蛋白質があります。心不全患者さんの40~60%には血液中にβ1AAが存在し、β1AAを除去すると心機能が回復することが知られています。この知見を利用してマウス10匹にβ1AAを投与して、心不全を誘発しました。その後5匹ずつ2群に分け、片方はケルセチン100 mg/kgを1日1回投与し、もう片方にはケルセチンを投与せずに比較の対象にしました。これとは別にβ1AA処置しない5匹のマウスを用意して、正常群としました。
4週間の投与期間を経て、各マウスに人間と同じ心エコー検査を行い、心機能を評価しました。心臓に超音波を当てて形・大きさ・動きを調べます。心臓が1回の拍動で送り出す血液の割合を左室駆出率と呼びますが、まさに冒頭で述べたポンプとしての性能を表す指標です。正常群の左室駆出率は65%で、心臓に蓄えた血液の65%を全身に送り出した事を意味しますが、非投与群では50%に低下していました。これがケルセチン投与群では正常と同じ65%であり、β1AAに起因する心不全が治療できました。また、心臓の動きを示す指標として内径短縮率を測定しました。心臓は収縮と拡張を繰り返し、収縮した特にその勢いで血液を送り、拡張して血液を受入れます。拡張期から収縮期にかけて心臓がどれだけ縮んだかを示すのが内径短縮率で、数値が小さいほど心臓の動が鈍いことを示し、心不全の指標となります。正常群、非投与群、ケルセチン投与群の内径短縮率はそれぞれ、37%、24%、37%でした。この指標を見てもケルセチンは正常群と同等であり、回復効果は抜群です。
ケルセチンが心不全を改善したことが分かりましたので、次にその仕組みを調べるべく、各マウスの心臓に起きた変化を詳しく調べました。その結果、LC3IIという蛋白質の挙動に大きな違いが見られました。心臓に限らず組織の恒常性を保つために必須不可欠なオートファジーという生命現象がありますが、LC3IIとはその指標です。組織内の古くなった細胞や蛋白質は分解して新しく作り直すことが必要ですが、分解する過程がオートファジーです。LC3IIの発現量が多ければオートファジーが活性化していますが、正常群の心臓におけるLC3IIの発現量を1.0とした時の相対比は、非投与群が0.6、ケルセチン投与群で1.2でした。
β1AAは心臓のオートファジーを低下したため心不全を誘発しましたが、ケルセチンは正常群を凌駕する程オートファジーを活性化しています。その結果、低下したマウスの心機能が正常と同じレベルに回復しました。
キーワード: 心不全、ケルセチン、心エコー検査、心機能、オートファジー