ケルセチンとルテオリンは、ヒト結腸癌細胞に対する5-FUの阻害作用を増強する
出典: Nutrition and Cancer 2022, 74, 660-676
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01635581.2021.1900301
著者: Mehmet Kadir Erdoğan, Can Ali Ağca, Hakan Aşkın
概要: 5-FUとは、発売開始から50年以上に渡り長く使用されてきた癌の治療薬です。主に胃癌・肝癌・直腸癌・結腸癌・乳癌・膵癌の治療に使われます。癌細胞が細胞分裂して増殖する際には、遺伝子の本体であるDNAの複製によって開始します。DNAを構成する塩基という成分の中に、チミンという物質があります。5-FUはこのチミンと形が非常によく似ているため、癌細胞は間違えて取込みます。形が似ていても、所詮は異なった物質です。チミンであるべき所が5-FUで置き換わると、もはやDNAの複製はできません。ひいては癌細胞の増殖が止まり、腫瘍組織が縮小して癌の治療に寄与します。
今回の研究の目的は、この5-FUの抗癌作用を増強することです。そこで、ケルセチンとその仲間であるルテオリンをそれぞれ、5-FUと組合せた際の効果を検証しました。
ケルセチンやルテオリンには元々、癌細胞を自然死させる働きがあります。自然死はアポトーシスとも呼ばれ、予め予定されている細胞の死です。オタマジャクシがカエルに成長する際の、尻尾の消滅を思い浮かべて下さい。まさに、尻尾を構成する細胞一つ一つが、予定されていた自然死を迎えます。癌細胞もアポトーシスすれば、オタマジャクシの尻尾が消滅するごとく、腫瘍組織が消滅します。
実験は、ヒト由来結腸癌細胞株HT-29を用いて行われました。 この細胞に、5-FUとケルセチンとの組合せを作用させると、5-FU単独作用時と比べて、アポトーシス誘導物質が1.65~8.43倍に増えました。その一方で、アポトーシス抵抗物質は0.32~0.46倍に減少しました。ルテオリンの場合は、アポトーシス誘導物質が1.42~3.29倍で、アポトーシス抵抗物質は0.22~0.41倍でした。
ケルセチンもルテオリンも、癌細胞に対するアポトーシス作用をうまく活用して、5-FUの抗癌作用を増強することが出来ました。
キーワード: 癌、5-FU、結腸癌細胞株、アポトーシス、ケルセチン、ルテオリン