ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは統合失調症における認知障害を改善する

出典: European Journal of Pharmacology 2025, 1007, 178272

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S001429992501026X

著者: Yating Yang, Mengdie Li, Yunxiao Liu, Bei Luo, Menglin Ge, Kai Zhang, Huanzhong liu, Hongbo He

概要: 統合失調症は、思考や感情がまとまりにくい状態が継続する精神疾患です。大きく分けて3種類の症状があり、1) 妄想や幻想などの陽性症状、2) 意欲の低下や引きこもりの陰性症状、3) 記憶力や注意力が低下する認知障害です。中でも認知障害が最も多い症状で、80%の患者さんに見られます。統合失調症の薬は陽性症状の緩和が中心で、認知障害への対応は限られています。今回の研究では、統合失調症のマウスにおける認知障害をケルセチンが改善しました。

マウスの生後7日目から11日目にかけて脳に神経毒を注射し、生後21日目から56日目には母親から離れさせて、統合失調症の状態を作りました。36匹を12匹ずつ3群に分けて、生後56日目から84日目に以下の処置を行いました。1) ケルセチンを投与しない、2) 低用量(10 mg/kg)のケルセチンを毎日投与、3) 高用量(50 mg/kg)のケルセチンを毎日投与。これとは別に、神経毒注射と母親の引離しをしないマウスを12匹用意して、正常群としました。処置期間が終了して、50 cm x 50 cmの周囲に高さ50 cmの壁を設置してマウスを中に入れ、10分間の行動を観察しました。統合失調症における認知障害の特徴に定型行動がありますが、この仕掛けの定常行動は、壁に沿ってぐるぐる歩き回ります。正常群マウスの10分間に占める定常行動の割合は10%でしたが、対して非投与群は63%に上昇しており、統合失調症の特徴が現れました。ケルセチンの効果として、低用量群の41%と高用量群の26%が記録され、用量依存的に定常行動を減少しました。

統合失調症の特徴として、プレパルス抑制の低下も挙げられます。人間も含めて全ての動物は大きな音に驚きますが、予め小さな音を聞いていれば、その後の大きな音への驚きが軽減します。これがプレパルス抑制です。プレには「以前の」という意味があり、パルスとは音のような刺激を意味します。前もって音の刺激を受取ると脳が注意すべき情報と認識するため、続いて大きな音があってもプレパルス抑制が発動するため驚きは少なくなります。ところが統合失調症の認知障害があると、脳の認識に狂いが生じるため、プレパルス抑制が低下します。実験では65 dbの小さな音をマウスに聞かせ、その後87, 90, 93 dbの大きな音を3通り聞かせた時に恐怖反応をするかを調べて、プレパルス抑制を評価しました。各大きさの音に共通していましたが、非投与群におけるプレパルス抑制は、正常群の約半分に低下していました。ケルセチン低用量群が示したプレパルス抑制は正常群の約7割程度、高用量群では正常群と同程度まで回復しました。ここでもケルセチンの治療効果が端的に現れました。

以上、統合失調症の特徴である定型行動の増加とプレパルス抑制の低下は、いずれもケルセチンが見事に改善しました。冒頭に述べたように現在ある統合失調症の薬は、妄想や幻想などの陽性症状には有効ですが、認知障害を改善する薬がありません。今回示されたケルセチンの効果は、この現状に一石を投じました。

キーワード: 統合失調症、認知障害、ケルセチン、定型行動、プレパルス抑制