ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

麻酔薬を吸入した新生児の記憶障害は、ルチンが改善する

出典: Scientific Reports 2025, 15, 38077

https://www.nature.com/articles/s41598-025-21874-x

著者: Xinyu Tian, Miaomiao Xiong, Zhiguo Jiang, Rong Hong, Honghua Wang

 

概要: セボフルランという吸入麻酔薬があり、全身麻酔に使われます。脳神経に作用して全身麻酔が導入されるため、脳が未発達の新生児が吸入しては悪影響を受けることが、容易に想像できます。今回の研究では、セボフルランを吸入した新生児マウスの記憶障害を、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが改善しました。また、ルチンが治療した仕組みの一部も解明されました。

マウス(24匹)の生後6,8,10日目に、2時間ずつセボフルランの吸入を行いました。その後12匹ずつ2群に分けて、生後20~35日目に片方はルチン100 mg/kgを投与し、もう片方には投与しないで比較対照としました。これとは別にセボフルランを吸入しないマウス12匹を用意して正常群としました。投与期間が終了した後、モリスの水迷路という実験で各マウスの記憶力を評価しました。1カ所だけ浅い場所(水深3 cm、他の場所は水深6 cm)があるプールにて、マウスを泳がせる実験です。浅瀬の位置と周囲の景色を記憶すべく、予めマウスに学習をさせました。本試験では浅瀬に到達するまでの時間を図りますが、プールの水は濁っており、浅瀬の位置が見えず、周囲の景色から判断するしかありません。従って、到達時間が長ければ記憶障害がより深刻であることを意味し、到達時間の短縮をもって記憶障害の改善効果を評価します。結果は、正常群: 20秒、ルチン投与群: 20秒、非投与群: 12秒でした。よって、セボフルラン吸入を原因とする記憶障害は、ルチンの投与で正常レベルまで改善されました。

マウスで何が起きたかを知るべく、脳で記憶を司る海馬を詳細に調べました。その結果、非投与群の海馬ではVglut2とPSD95という2種類の蛋白質が、正常群の半分以下に減少していました。ルチン投与群ではVglut2は正常群の7~8割程度に、PSD95は9割程度まで回復していました。海馬における脳神経は神経細胞で構成されますが、細胞同士をつなぐシナプスと呼ばれる接合部が存在します。神経細胞が他の神経細胞や別の組織に信号を送る際、シナプスを介して送ります。Vglut2はシナプスにおいて神経伝達物質を運ぶ役割があり、PSD95はシナプスを形成する蛋白質です。従って、新生児マウスにおけるセボフルラン吸入を原因とする記憶障害の本質は、シナプスの形成と働きの両方に障害を与えた点でした。ルチンによる記憶障害の回復は、Vglut2とPSD95の増加にありました。

ところで、シナプスを食べるミクログリアという細胞があります。古くなったシナプスや作り過ぎたシナプスはミクログリアが食べて、シナプスの数を一定に保ちます。セボフルラン吸入によるシナプスの減少が分かったので、今度は各マウスのミクログリアを調べました。正常群とルチン投与群のミクログリアは枝分かれした休止状態で、存在はしてもミクログリアを食べません。一方、非投与群ではアメーバ状をしており、シナプスを食べる貪食状態に活性化されていました。

以上の結果、セボフルラン吸入→ミクログリアの異常活性化→シナプスの減少→記憶障害という因果関係と、ルチンによる改善の仕組みが明らかになりました。

キーワード: セボフルラン、認知障害、ルチン、シナプス、ミクログリア