ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

糖転移ルチンによる細胞老化の抑制

出典: ACS Nutrition Science 2025, 1, in press

https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnutrsci.5c00012

著者: Takumi Terada, Vinodh J Sahayasheela, Ryohei Noizumi, Akihito Nakanishi, Mahamadou Tandia, Hiroshi Sugiyama

 

概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。このルチンを糖を結合させる酵素で処理すると、もう1個糖が増えた糖転移ルチンが得られます。ケルセチンから見れば糖が3個結合した構造ですが、糖の数が増えると水に溶けにくいケルセチンやルチンの性質が変わり、水に溶けやすくなります。今回の研究では、水に溶けやすい糖転移ルチンが細胞の老化を抑制することが発見されました。

細胞の染色体には、その両端にテロメアと呼ばれる部分があり、染色体を守るカバーのような役を果たします。細胞分裂をするたびに、このテロメアは少しずつすり減ります。そしてテロメアが一定の長さに達すると、その細胞はもはや細胞分裂による増殖が不可能となります。従って、テロメアの長さは老化のバロメータと見なすことができ、短いほど老化が進行しています。実際、若いTIG-1細胞(ヒトの肺に由来する細胞)と10回以上細胞分裂して老化したTIG-1細胞とのテロメアの長さを比較したところ、前者は8.7 kb (kbとはキロベースで核酸の長さの単位)で、後者は6.8 kbでした。これは自然に細胞が老化する様子の観察ですが、一気に老化を促す方法もあります。強力な酸化剤である過酸化水素で細胞を刺激する手法が、実験でしばしば用いられます。TIG-1細胞に10 μMの濃度の過酸化水素水を加えたところ、テロメアは8.1から5.5 kbに縮んでしまいました。酸化ストレスにて細胞老化を再現したことになりますが、糖転移ルチンを添加した際のテロメアへの影響を調べました。糖転移ルチンの濃度が30 μMの時は6.4 kb、150 μMでは7.6 kbという結果となり、糖転移ルチンは過酸化水素による細胞老化を抑制しました。

テロメアと並んで代表的な細胞老化を評価する指標に、β-ガラクトシダーゼがあります。細胞が老化すると特定の蛋白質が蓄積され細胞老化随伴分泌現象と呼ばれますが、典型的な蓄積物がβ-ガラクトシダーゼです。よって、この物質が多ければ多い程、老化が進行しています。先程と同様に、TIG-1細胞を過酸化水素で刺激した際の、糖転移ルチンがβ-ガラクトシダーゼに及ぼす影響を調べました。過酸化水素はβ-ガラクトシダーゼの量を2.3倍に跳ね上げ、テロメアの時と同じように老化を促進しました。糖転移ルチンの存在は、濃度30 μMで1.7倍、150 μMで1.2倍と抑制効果を認めました。

糖転移ルチンの水溶性は、ルチンの3万倍に増強されています。体の70%は水分と言われる通り、細胞内の現象も水の中と見なされます。糖転移ルチンは水によく溶けるため、ケルセチンが有する抗老化作用を細胞内で増強したと考えられます。

キーワード: 糖転移ルチン、細胞老化、TIG-1細胞、テロメア、β-ガラクトシダーゼ