水溶性ケルセチンによる、筋萎縮に伴う認知障害の予防
出典: JCSM Communications 2025, 8, e70016
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/rco2.70016
著者: Chihiro Tohda, Mizuho Kaneda, Tsukasa Nagase, Kaori Nomoto
概要: 運動不足は、認知障害を招く要因の一つに挙げられます。身体を動かさないと筋肉が減少する筋萎縮が起こりますが、筋萎縮と認知障害との関連が近年、次々と明らかになりました。今回の研究では、脚を拘束した筋萎縮のマウスに認知障害が起きたことと、その認知障害はユビオケルセチン®が予防したことが発見されました。ユビオケルセチン®とは最近開発され、水に溶やすい性質にケルセチンを改良した素材です。
マウス18匹の2本の後脚の大腿部から足首にかけてテープを巻き、歯科用のセメントで固めた上から更にテープを巻いて、17日間拘束しました。18匹を9匹ずつ2群に分け、片方には拘束中にユビオケルセチン®500 mg/kgを毎日投与し、もう片方には投与しませんでした。これとは別に、脚を拘束しないマウス9匹を用意して正常群としました。前脛骨筋(前面に位置して足首を動かす筋肉)が体重に占める割合は、正常群が0.40%のところ、ユビオケルセチン®投与群で0.35%、非投与群では0.28%でした。脚の拘束により前脛骨筋に筋萎縮が起きましたが、ユビオケルセチン®の投与で改善されたことが分かります。
マウスの認知機能は、新奇探索試験という実験で評価しました。マウスには初めて見る新しい物に興味を示す習性があり、その好奇心ゆえ「新規」ではなく「新奇」と表記します。まず2種類の物体を箱に入れ、10分間ラットを自由に行動させます。4時間経過した後、片方の物体を別の物体と置換えて再び箱の中の行動を観察します。4時間前の記憶が正常であれば、以前からあった物体と新しい物体とが識別できますので、習性に従って新しい物体に近づく時間が長くなります。実際、正常群の物体に寄った総時間の内60%が新しい物体でした。非投与群では49%に落ちて、すなわち物体に寄った時間に差がなく、筋萎縮による認知障害が示唆されました。一方、ユビオケルセチン®投与群は60%で正常群と全く同じ行動であり、認知障害を予防したと結論できました。
最後に各マウスの脳組織を調べた結果、クロトーという遺伝子に顕著な違いを見出しました。クロトーとは、老化に対抗する遺伝子として最近注目されており、遺伝子操作でクロトーが欠損したマウスは認知障害を誘発した研究例もあります。正常群の脳におけるクロトーの発現量を1.0とした時の相対比は、非投与群で0.4、ユビオケルセチン®投与群では1.7でした。何と、正常群を凌駕したクロトー発現の増強であり、認知障害を予防した仕組みを示唆するデータです。そこで、マウスの海馬神経細胞を培養して、濃度を変えてユビオケルセチン®を添加しました。0.1 μMの濃度ではクロトーの量が添加前の1.2倍に増え、1 μMに濃くすると1.5倍になりました。よって、ユビオケルセチン®が海馬神経に直接働くと、クロトーが増加することが判明しました。
以上、筋萎縮に伴う認知障害をユビオケルセチン®が予防した仕組みは、海馬神経細胞におけるクロトーの発現の増強にありました。
キーワード: 筋萎縮、認知障害、ユビオケルセチン®、新奇探索試験、クロトー、海馬神経細胞