ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

糖転移ルチンはiPS細胞の最初期遺伝子を活性化する

出典: Stem Cell Research 2021, 56, 102511

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1873506121003585

著者: Tomoko Miyake, Munekazu Kuge, Yoshihisa Matsumoto, Mikio Shimada

 

概要: ケルセチンの類似物質の一つに、ルチンがあります。ケルセチンに2個の糖が結合した形です。このルチンを酵素処理すると、さらに糖が増えた糖転移ルチンが得られます。ルチンも糖転移ルチンも、摂取すると腸で糖部分が切断され、ケルセチンの形で体内に吸収されることが知られています。この糖転移ルチンには、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に特異的で、他の細胞には見られない幾つかの性質が見出されました。ちなみに、iPS細胞は山中伸弥先生によって発見され、その業績がノーベル医学生理学賞の対象となりました。

ケルセチンもその仲間も、濃度に比例して細胞の生存率を高める領域、濃度を上げても生存率が変わらず一定の領域、濃度に比例して生存率が減少する毒性の領域、の3通りが存在します。今回の研究で初めて明らかになったのは、0.05~50 μMの濃度で糖転移ルチンを添加すると、iPS細胞とそれ以外の細胞では、その挙動が大きく乖離していた点です。正常細胞も癌細胞も含めて、この範囲の濃度では、2番目の一定の生存率でした。ところがiPS細胞の場合は、濃度に比例して生存率が向上しました。

次に、iPS細胞の生存率を最大化した50 μMの濃度で糖転移ルチンを作用させた際の、遺伝子の動きを調べました。対象とした細胞は3種類で、ヒト皮膚線維芽細胞であるNB1RGB、このNB1RGBより作成したiPS細胞のC2、このC2が分化した角化細胞のP1です。糖転移ルチンが活性化した遺伝子は3種の細胞で異なりますが、C2に特有の結果があります。iPS細胞のC2では、最初期遺伝子、すなわち刺激に対して急速で一時的に発現が増加する遺伝子が活性化されました。

今後、iPS細胞は再生医療の分野で実用化されると言われていますが、最初期遺伝子を活性化する性質ゆえに、糖転移ルチンを始めとするケルセチンの仲間が大いに活躍しそうです。

キーワード: 糖転移ルチン、iPS細胞、生存率、最初期遺伝子