ケルセチンは腸内細菌叢を整えて、にきびを軽減する
出典: Food Bioscience 2025, 74, 108029
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2212429225022060
著者: Jie Li, Bingyong Mao, Xin Tang, Qiuxiang Zhang, Jianxin Zhao, Hao Zhang, Shumao Cui
概要: にきびの特徴は、皮脂(毛穴から出る脂肪分を多く含む液体)の過剰な分泌と皮膚の炎症です。にきびが青春のシンボルと言われるのは、思春期に皮脂の分泌が活性化するためです。糖質や脂質の摂り過ぎ・水分不足・ホルモンバランスの乱れ・睡眠不足など生活習慣的な要因が皮脂の過剰分泌を招き、にきびとして現れます。今回の研究では、ケルセチンがにきびを軽減することが発見されました。一見、腸とにきびとは無関係のようですが、ケルセチンが腸内細菌叢(腸に生息する細菌類の分布)を整えた結果、にきびを改善するという意外な事実も明らかになりました。
マウス12匹を6匹ずつ2群に分け、片方にはケルセチン20 mg/kgを飲ませ、もう片方は非投与群としました。投与期間は2週間とし、中間点の1週間目に皮脂の主成分であるオレイン酸を皮膚に塗って、にきびを誘発しました。これとは別に、オレイン酸を塗らないマウスを6匹用意して、正常群としました。投与期間が終了した後、皮膚の状態を比較しました。皮膚の最表面を表皮と呼びますが、にきびの形成は表皮を厚くします。それぞれの表皮の厚さは、正常群: 23 μm、非投与群: 62 μm、ケルセチン投与群: 38 μmでした。皮膚をオレイン酸で刺激すると表皮が厚くなり、にきびの状態を再現しましたが、前後のケルセチンの投与は正常に近づけました。皮膚中の中性脂肪とコレステロールの濃度は、正常群: 0.5および0.4 mmol/g、非投与群: 0.8および0.6 mmol/g、ケルセチン投与群: 0.4および0.4 mmol/gでした。冒頭に述べたように、皮脂は脂肪分を多く含みます。ケルセチンによる中性脂肪とコレステロールの減少は、オレイン酸による過剰な皮脂の分泌を抑制したことを意味します。さて、皮脂と並んでにきびのもう一つの特徴である炎症ですが、IL-6という炎症誘導物質を比較しました。正常群の皮膚中におけるIL-6の発現量を1.0とした際の相対比は、非投与群: 2.3、ケルセチン投与群: 0.9でした。従って、ケルセチンによる炎症の抑制は正常群より更に低いIL-6レベルを実現して、にきびを軽減しました。
次に、にきびの軽減で腸内細菌叢が変動するか否かを知るべく、ケルセチン投与群と非投与群の菌叢を比較しました。その結果、ラクトバチルス属というグループの菌類がケルセチンの投与で増加しました。反対に、ラクノスピラNK4A136属に分類される菌類は減少していました。面白いことに、炎症の指標に選択したIL-6は、この大きく変動した菌類と密接に関連していました。すなわち、腸でラクトバチルス属が増加すると、皮膚のIL-6は減少する逆相関を見出しました。一方、ラクノスピラNK4A136属の減少に従い、IL-6も減少する相関関係が明らかになりました。この結果は、ケルセチンが発揮した抗炎症作用は、腸内細菌叢を介していることを強く示唆しています。
にきびに悩んでいる方は、玉ねぎやリンゴなどケルセチンを多く含む食品を多く摂取しましょう。ケルセチンは皮脂の過剰分泌を抑え、さらには腸内細菌叢を整えて炎症を抑制して、にきびを軽減することが期待出来そうです。
キーワード: にきび、ケルセチン、表皮、皮脂、炎症、腸内細菌叢