ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

薬物誤飲中毒の緩和に見る、ケルセチンの万能性

出典: Open Veterinary Journal 2025, 15, 5594-5604

https://openveterinaryjournal.com/?mno=284381

著者: Hosny Ibrahim, Esraa Bahgat Shehata Afifi, Azza A. A. Galal, Mohamed M. M. Metwally, Wageh Sobhy Darwish

 

概要: ケトプロフェンという薬があります。腰痛や筋肉痛における湿布薬やクリーム剤など外用薬として使われますが、経口剤(飲み薬)ではありません。湿布や塗布で痛い場所にケトプロフェンを直接作用すると痛みを緩和できますが、口から飲んでしまうと胃を中心に、有害事象が起きるためです。今回の研究では、ケトプロフェンを飲ませたラットに発生した胃潰瘍をケルセチンが緩和しました。いわばケトプロフェンの誤飲事故をラットでシミュレーションした実験ですが、胃潰瘍に加えて、肝機能障害や腎機能障害も改善しました。

ラット24匹を8匹ずつ3群に分け、以下の薬物を強制的に口に入れ、14日間継続して毎日飲ませました。1) ケトプロフェン50 mg/kgのみ、2) ケトプロフェン50 mg/kg+オメプラゾール20 mg/kg、3) ケトプロフェン50 mg/kg+ケルセチン50 mg/kg。2)で用いたオメプラゾールとは、胃潰瘍の薬です。これとは別に、ケトプロフェンを飲ませないラット8匹を用意して、正常群としました。

15日目に、各ラットの胃潰瘍の度合いを比較しました。評価基準は以下の通りで0~5の点数を付けます。0: 潰瘍が全くない、1: 点状の潰瘍を認める、2: 小さな潰瘍が複数、3: 中度の潰瘍が複数、4: 大きな潰瘍が複数、5: 穿孔(穴)を伴う大きな潰瘍が複数。当然ながら正常群では0でしたが、1)の胃潰瘍スコアは3.6であり、ケトプロフェンの誤飲による胃潰瘍の誘発を物語ります。2)および3)は両方とも1.4であり、胃潰瘍は大幅に緩和されました。オメプラゾールは胃潰瘍の薬ゆえ、当然の結果と言えますが、ケルセチンの改善効果は同程度でした。

次に人間の健康診断と同様の血液検査を行い、各ラットの肝機能と腎機能を調べました。肝機能は血液中のALTとASTで評価しました。これらは肝臓の中で働く酵素ですが、肝臓が損傷すると血液に流れるため、血中濃度が上昇します。正常群ではALTが28 U/LでASTは26 U/Lでしたが、1)では82および67 U/Lになり、ケトプロフェンは胃潰瘍だけでなく肝機能障害も引き起こしました。2)のデータは66および45 U/Lでしたが、3)は50および38 U/Lでした。オメプラゾールによる肝機能の改善は認めましたが、ケルセチンに比べると弱く、胃潰瘍の薬としての限界と言えましょう。腎機能は血液中のクレアチニンと尿素で評価しました。腎臓は血液から尿を作る器官ですが、生命活動で生じた老廃物であるクレアチニンと尿素は、血液から尿に移行します。これらが血液に多く残るようでは腎臓の働きが不十分です。正常群のクレアチニンは38 mg/dLで尿素は0.9 mg/dLでしたが、1) 86および2.7 mg/dL、2) 60および1.9 mg/dL、3) 50および1.6 mg/dLという結果でした。よって、腎機能の改善もケルセチンがオメプラゾールを上回りました。

ケルセチンは、オメプラゾールと同等に胃潰瘍を改善し、肝機能と腎機能の改善効果は、オメプラゾール以上でした。薬物誤飲中毒の緩和における、ケルセチンの万能性を示すデータと言えます。

キーワード: 薬物誤飲、ケトプロフェン、胃潰瘍、ケルセチン、オメプラゾール、肝機能、腎機能