肥満の抑制に見る、運動とケルセチン摂取との共通点
出典: Archives of Biochemistry and Biophysics 2026, 776, 110708
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003986125004229
著者: Victoria Muscia Saez, Diahann Jeanette Perdicaro, Cecilia Rodriguez Lanzi, Eleonora Cremonini, Patricia Oteiza, Marcela Alejandra Vazquez Prieto
概要: 食品には〇〇カロリーと熱量が表示されています。食べた熱量(エネルギー)の一部は活動に使われ、また一部は熱となって体から放出されます。余った熱量は中性脂肪として体に貯まりますが、これが多過ぎると肥満になります。言うまでもなく、運動して熱量を余らせないことが、肥満の防止に最も有効です。今回の研究では、高脂肪食とケルセチンを同時に与えたラットは、高脂肪食の悪影響が最小限でした。また、ケルセチンの効果に、運動との共通点が見出されました。
ラット21匹を7匹ずつ3群に分け、以下の条件で6週間飼育しました。1) 脂肪分が16%の通常の餌、2) 脂肪分が40%の高脂肪食でケルセチン投与なし、3) 脂肪分が40%の高脂肪食でケルセチン20 mg/kgを毎日投与。各ラットの白色脂肪組織を調べました。ちなみに脂肪組織には、褐色脂肪組織と白色脂肪組織の2種類があります。前者が熱量を消費する熱産生の中心であるのに対して、後者は余った熱量を蓄積する場所で、ここが肥大する現象こそ肥満です。さて、白色脂肪組織を構成する脂肪細胞の大きさですが、1) 2800 μm2、2) 4100 μm2、3) 3700 μm2でした。中性脂肪が白色脂肪組織に貯まると、脂肪細胞が肥大化することが知られています。観察されたデータは、ケルセチンが高脂肪食による脂肪細胞の肥大化を抑制したことを示します。また、白色脂肪組織が全体重に占める割合は、1) 0.4%、2) 1.3%、3) 0.4%であり、ここでもケルセチンによる高脂肪食の悪影響を軽減しています。肥満に関する最も分かり易い指標は体重ですが、1) 450 g、2) 479 g、3) 459 gでした。3群間であまり大きな差はないものの、高脂肪食による体重の増加傾向と、ケルセチンによる抑制傾向がありました。
次に、筋肉組織の違いを調べました。PGC-1αとFNDC5という2種類の蛋白質を対象に、筋肉中の発現を比較しました。2)では両方とも1)の約半分に減少しましたが、3)では1)と同等のレベルを維持しました。実はこの2種類の蛋白質は、運動に関連しています。運動はPGC-1αを細胞質から核へ移行します。PGC-1αが核移行すると、FNDC5の産出を開始します。従って、運動はPGC-1αとFNDC5を増やしますが、ケルセチンの摂取で維持できた点に運動との共通点を見出せます。
さて、運動が筋肉中に増やすFNDC5は分解して、イリシンという物質に変わり、血液に流出します。運動が健康に良いのは、イリシンが血液で全身に運ばれて有益な作用を発揮するためです。血中のイリシン濃度は、1) 1.0 μg/mL、2) 0.7 μg/mL、3) 1.1 μg/mLであり、筋肉中のFNDC5を反映した結果でした。イリシンの挙動にも、ケルセチンの摂取と運動との共通点を見出せます。
以上、ケルセチンは高脂肪食の悪影響を軽減しましたが、ケルセチンさえ摂っていれば運動はしなくとも肥満が防止できる訳ではありません。むしろ、健康な生活を送るためには、運動して同時にケルセチンも摂りましょうというメッセージです。
キーワード: 肥満、高脂肪食、ケルセチン、白色脂肪組織、PGC-1α、FNDC5、イリシン、運動