ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

イソケルセチンは、癌の進行と血栓形成の両方を抑制する

出典: The FASEB Journal 2026, 40, e71361

https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1096/fj.202502774R

著者: Justine A. Keovilay, Jason W. Hoskins, Jean-Pierre Kinet, Thomas C. Lines, Daniel R. Kennedy

 

概要: 血栓とは、血管の内部で血液が塊を形成する現象です。血栓は血管を詰まらせて血液の流れを妨害するので、心筋梗塞・虚血性心疾患・脳卒中の原因となり危険です。癌に罹ると癌細胞が血栓を形成する物質を作るため、血栓の形成リスクが3~50倍に高まります。一方、血栓が癌の進行や転移を促進することも知られており、癌関連血栓症という病名まで付けられています。今回の研究では、ケルセチンに糖が1個結合したイソケルセチンが癌の進行と血栓形成の両方を抑制することが、マウスを用いた実験で示されました。

マウス24匹の右側面に、OVCAR8という癌細胞を注射して移植しました。やがて移植した場所に腫瘍が見られますが、体積が30 mm3に達した時点で、8匹ずつ3群に分けて処置を開始します。その内容は、1) イソケルセチンを投与しない、2) イソケルセチン10 mg/kgを毎日投与、3) イソケルセチン30 mg/kgを毎日投与、で区別します。46日の投与期間が終了した後、各マウスの腫瘍の体積を比較しました。1)では当初30 mm3であった腫瘍が530 mm3まで拡大しましたが、2)と3)は95 mm3でした。腫瘍の拡大イコール癌の進行を意味しますので、イソケルセチンは非投与群と比べて癌の進行を顕著に抑制しました。

次に、各マウスの血液を調べました。プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)という酵素は、蛋白質を複雑な形に変化させる働きがありますが、血液の塊である血栓は、蛋白質が複雑に積み重なって形成します。血栓の形成時には、血管や血液中の血小板からPDIが盛んに分泌されています。ゆえに血液におけるPDIの活性は、血栓の形成状況のバロメーターと見なせます。1)のPDI活性を100%とした時の相対比率は、2)が75%で3)が50%でした。従って、イソケルセチンは用量依存的にPDIを阻害して、血栓の形成を抑制しました。

PDIと並ぶ血栓の形成の重要な担い手に、組織因子という蛋白質があります。血管が傷ついた時に血が固まって出血を防ぎますが、組織因子が司令塔となって必要な応答が起こります。組織因子は体を出血から守るために必須不可欠な存在ですが、本質的に血液を固める働きですので、血栓の形成時には過剰に活性化しています。PDI活性が血栓形成の原因とするならば、組織因子は結果に相当します。2)および3) の組織因子は1)の約半分に減少しており、ここでもイソケルセチンによる血栓形成の抑制効果が端的に示されました。

癌関連血栓症は、癌患者の直接の死因の14%であり、2位にランクしています。高い死亡率を招くのは適切な治療法がないことに他なりませんが、癌の進行と血栓形成の両方を抑制したイソケルセチンが救世主となりそうです。

キーワード: 癌、血栓、癌関連血栓症、イソケルセチン、OVCAR8、PDI、組織因子