ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ルチンはピラルビシンの抗癌作用を高め、副作用の心毒性は軽減する

出典: Phytomedicine 2026, 151, 157818

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944711326000553

著者: Qi Li, Meng Qin, Ping Liu, Mengmeng Liu

 

概要: ピラルビシンという、乳癌や胃癌に有効な薬があります。販売実績が40年に迫るロングセラーですが、心毒性の副作用があるため、低い用量に留まり服用量の増加が出来ません。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、ピラルビシンの心毒性を軽減しました。副作用の軽減に加えて、ルチンはピラルビシンの抗癌効果も増強しました。いずれも、マウスを用いる実験で示した結果です。

マウス45匹を15匹ずつ3群に分けて、以下の処置を行いました。1) 薬物投与なし、2) ピラルビシン6 mg/kgを1週間に1回投与、3) ピラルビシン6 mg/kgを1週間に1回投与し、ルチン100 mg/kgを毎日投与。処置期間は30日とし、ピラルビシンの投与は7日目、14日目、21日目の計3回です。30日目に各マウスの心電図を測定しました。ピラルビシンを投与してない1)は心毒性を誘発する余地がないため、正常な心電図となります。2)の心電図は1)と明らかに異なる形状で、ピラルビシンによる心毒性を認めましたが、3)は1)に近い形状でした。1)の心臓は規則正しく並んだ組織が特徴ですが、2)では組織の乱れ・出血・炎症がありました。3)では2)で見られた病態が改善され1)に近い心臓であり、ルチンによる改善効果を端的に示しています。また、心筋梗塞の指標であるクレアチンキナーゼの濃度は、1) 0.9 U/mL、2) 2.5 U/mL、3) 1.1 U/mLであり、ピラルビシンによる心筋梗塞のリスクの増加とルチンによる緩和が明らかになりました。

次に、マウス45匹の乳房に4T1という乳癌細胞を移植して、乳癌を発生しました。3群に分けること、30日間にわたる薬物投与を先程と同一の条件で行いました。すなわち、乳癌細胞の移植の有無を除けば全く同じ実験になりますが、今度は心臓の代わりに乳癌の進行を比較しました。腫瘍の体積は1) 950 mm3、2) 260 mm3、3) 195 mm3でした。先程の心臓を調べた実験では1)は正常群でしたが、今回の1)は放置すると腫瘍が無限に拡大する癌の特徴を再現しています。対して2)の結果は、ピラルビシンによる抗癌作用を示すデータです。面白いことに、3)の体積が2)よりも小さいのは、ルチンの併用によるピラルビシンの抗癌作用の増強を意味します。

ルチンの働きを知るべく、心組織と乳癌組織の中身を詳しく調べました。その結果、ルチンを投与した両組織では、miR-129-1-3pというマイクロRNAが増加していることが判明しました。マイクロRNAとは遺伝子の一種でサイズが小さく、それ自身は遺伝子情報としての蛋白質を作る働きがない代わりに、遺伝子本体であるRNAに結合して発現を妨害します。ルチンが増加したmiR-129-1-3pがどの様な仕組みで働くかは、今後解明されるべき課題です。

以上、ピラルビシンとルチンを共投与すると、心組織と乳癌組織の両方でmiR-129-1-3pが増加しました。その結果、ルチンはピラルビシンの副作用である心毒性を軽減し、抗癌作用は増強しました。一見、別々の現象と思われがちですが、ルチンの働きが共通していた点に注目したい所です。

キーワード: ルチン、ピラルビシン、心毒性、乳癌、miR-129-1-3p