ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体が肺線維症を改善する仕組み
出典: Journal of Agricultural and Food Chemistry 2026, 74, in press
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.jafc.5c13444
著者: Pei-Rong Yu, Chiao-Yun Tseng, Yu-Hsuan Liang, Yu-Ci Chang, Jing-Hsien Chen, Hui-Hsuan Lin
概要: 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は主に喫煙を原因とする肺の炎症で、世界の患者数が3~4億人と推計される死因の第3位です。COPDの症状として、肺胞(肺でガス交換を担う場所)の壁が線維化して硬くなる肺線維症があります。今回の研究では、ケルセチンに糖が1個結合したケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体(以下Q3G)が肺線維症を改善し、その仕組みの一部が解明されました。ケルセチンが体内に吸収されるとQ3Gに変化するため、いわば「ケルセチンのその後」のような存在です。
健康な人10名とCOPDの患者さん10名の肺を比較したところ、COPD に罹ると2種類の蛋白質が大きく減少していました。一つは酸化ストレスから身を守る働きをするNrf2で、もう一つは古くなった細胞や蛋白質を分解するLC3です。よって、肺組織が酸化ストレスに弱くなり、新陳代謝が進みにくいのが肺線維症の特徴と言えそうです。
マウス18匹の鼻に細菌由来の毒素を入れてCOPD の状態にした後、9匹ずつ2群に分けました。片方には30日間Q3Gを0.15 μmol毎日投与し、もう片方には投与しませんでした。これとは別に、毒素処置しない正常マウスを6匹用意しました。投与期間が終了した後、各マウスの肺組織におけるコラーゲンという蛋白質を調べました。呼吸で肺は風船のように膨み、本来は弾力がある筈ですが、肺線維症では硬くなってしまいます。コラーゲンは骨の主成分ですので、肺が骨の様に硬くなり、その正体はコラーゲンの蓄積です。正常マウスの肺中のコラーゲン量を1.0とした時の相対量は、Q3G投与群で1.8、非投与群が6.1でした。このデータはCOPDにて肺線維症が進行し、Q3Gの投与で見事に改善した事実を端的に示しています。
次に、冒頭で述べましたCOPDの患者さんで減少していた2種類の蛋白質を調べました。肺組織を染色して、Nrf2やLC3の存在で発色する領域をそれぞれ比較しました。正常マウスの肺中のNrf2陽性領域を1.0とした時の相対比は、Q3G投与群で2.1、非投与群が0.5でした。LC3に関しては、Q3G投与群で2.0、非投与群が0.7でした。従って、人間で見られたNrf2とLC3の減少という肺線維症の特徴は、マウスにも当てはまりました。
最後に、肺を構成するMRC-5細胞を用いた実験を行いました。COPDを誘発した時の毒素をこの細胞に作用すると、マウスと同様にコラーゲンが増加しました。毒素とQ3Gを同時に投与すると、コラーゲンの増加が抑えられ、肺が骨の様に硬くなる現象をミクロレベル(細胞)でも再現できました。遺伝子操作でNrf2を作れなくしたMRC-5細胞で同様の実験を行うと、Q3Gはコラーゲンを減少しなくなりました。また、毒素・Q3G・LC3阻害物質の3成分の同時投与でも、Q3Gによるコラーゲン減少が打消されました。
従って、Q3Gが肺線維症を改善する仕組みは、Nrf2とLC3の活性化と結論しました。
キーワード: COPD、肺線維症、ケルセチン-3-O-グルクロン酸抱合体、Nrf2、LC3、コラーゲン