ルチンによる腸内細菌叢の調節と、その先にあるインスリン抵抗性の改善
出典: Food & Function 2026, 17, in press
https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2026/FO/D5FO04604A
著者: Yi Lu, Lijun Chang, Shuangbo Liu, Mingfu Wang, Yueliang Zhao
概要: インスリンは膵臓が分泌するホルモンで、血中の糖を栄養源とすべく全身の細胞に取込む働きをします。インスリンが正常に機能すれば、糖は細胞が消費しますので、血糖値は当然下がります。インスリンが働かなくなり高血糖値が続く状態を「インスリン抵抗性」と呼び、糖尿病の危険信号です。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが、マウスのインスリン抵抗性を改善しました。また、ルチンによる改善の仕組みとして、腸内細菌叢(腸内に生息する細菌類の分布)の調節が明らかになりました。
マウス30匹を10匹と20匹の2群に分けて、10匹には通常の餌を与え、20匹には終末糖化産物(糖が縮合して劣化した蛋白質の総称で、老化や病気の原因物質)を多く含む餌を与えました。終末糖化産物は揚げ物やインスタント食品に多く含まれ、いわば悪い食生活のシミュレーションです。12週間後に、20匹をさらに10匹ずつ2群に分けて、片方にはルチン100 mg/kgを毎日投与し、もう片方には投与しませんでした。ルチンの投与期間は12~20週目の8週間ですが、餌の内容は変更しません。投与期間が終了した後、各マウスの血液を検査してHOMA-IRを比較しました。HOMA-IRとは、空腹時血糖値と空腹時インスリン値から算出されるインスリン抵抗性の指標です。HOMA-IR が1.6以下で正常、2.5以上でインスリン抵抗性と判断します。通常の餌のマウスは正常群に相当しますが、HOMA-IRは1.5でした。一方、ルチン非投与群は2.5で、食生活の乱れがインスリン抵抗性を誘発したことを再現しています。ルチン投与群では同じ餌にも拘わらず1.6であり、正常領域に入りました。ルチンによるインスリン抵抗性の改善を見事に示しています。データは割愛しますが、非投与群では中性脂肪やコレステロールも上昇して生活習慣病の特徴を呈し、ルチン群では正常化していました。
次に、各マウスの腸内細菌叢を調べました。ファーミキューテス門とバクテロイデス門に顕著な違いを認めました。前者は肥満で増加することが知られ、別名「デブ菌」とも呼ばれます。後者は脂肪の吸収を抑える短鎖脂肪酸を作り、従って太りにくい「ヤセ菌」でもあります。従って、両者の頭文字を取ったF/B比は肥満で数値が大きくなります。正常群と比べて非投与群ではF/B比が大きくなり、ここでも生活習慣病の要素が現れました。しかし、ルチン群では正常群と変わらないF/B比でした。また、腸内細菌叢とHOMA-IRとの関連を統計的に処理したところ、アッカーマンシア属というグループに負の相関を認めました。すなわち、アッカーマンシア属が少ないとHOMA-IRが高く、反対にアッカーマンシア属が多ければHOMA-IRは低い傾向がありました。ちなみに、アッカーマンシア属はバクテロイデス門と同様に、健康に有益な善玉菌と見なされています。
以上、ルチンはまず腸内細菌叢を整えて健康に有益な菌を増やし、その結果として食生活の乱れによるインスリン抵抗性を改善しました。
キーワード: インスリン抵抗性、ルチン、HOMA-IR、腸内細菌叢、F/B比、アッカーマンシア属