肝虚血再灌流傷害の軽減における、CD36とルチンの役割
出典: International Immunopharmacology 2026, 172, 116231
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1567576926000743
著者: Zhenlong Liu, Miaomiao Wang, Liangyun Li, Wenmei Zhang, Wenna Meng, Chengjiang Cao, Hehang Song, Xue Fang, Yan Zhu, Ming Yang, Changlin Du, Yuan Zhang, et al
概要: 虚血再灌流(きょけつさいかんりゅう)傷害とは、臓器や組織の血流を止める操作(虚血)の後、再び血液を流す(再灌流)時に見られる損傷です。虚血再灌流で生じる毒性物質が臓器や組織を傷つけるために起こるので、「障害」ではなく「傷害」です。典型的な例として肝臓手術があります。手術中は肝臓の血液を止めますので虚血状態にあり、手術後に再灌流すると、しばしば肝組織が損傷して機能の低下が付随します。これが虚血再灌流傷害です。今回の研究では、ケルセチンに糖が2個結合したルチンが肝臓の虚血再灌流傷害を軽減し、その仕組みも解明されました。
麻酔したマウス6匹に手術を行い、肝臓を露出した後、クリップで1時間挟んで虚血しました。クリップを外して再灌流を行い、縫合した6時間後に血液と肝組織の状態を調べました。別に6匹のマウスを用意して、開閉手術のみ行い、肝臓の虚血再灌流を省略しました。これは、偽手術と呼ばれる操作で、虚血再灌流の有無以外は同一の実験条件とする目的で行われました。両群の違いは以下の5点に集約され、1)は肝機能の指標で2)~5)は虚血再灌流傷害の特徴です。1) 血中のALTとASTは偽手術群ではゼロに近く、虚血再灌流群で上昇、2) 肝組織中の活性酸素種は、偽手術群に比べて虚血再灌流で上昇、3) 肝組織の損傷は虚血再灌流群のみに見られ、4) 損傷の本体はフェロトーシスと呼ばれる鉄が介在する細胞死、5) よって肝組織の鉄濃度は、偽手術群に比べて虚血再灌流群で上昇。この5大特徴に加え、CD36という蛋白質に極端な違いを認め、虚血再灌流群で偽手術群の2.5倍でした。
CD36の関与を確認すべく、遺伝子操作でCD36を作れなくしたマウスを用いて、同様の実験を行いました。注目すべきことに、CD36のノックアウトは5大特徴すべてを改善して、肝虚血再灌流傷害を軽減しました。例えば血中のALTは、野生型で360 U/Lのところ、CD36欠損型では130 U/Lでした。フェロトーシスを実行するACSL4という因子のCD36欠損型での発現は、野生型の6割に減少しました。従ってCD36は、肝虚血再灌流傷害と密接に関与していました。
CD36を阻害する物質に肝虚血再灌流傷害を改善する効果が期待できますので、天然物から探索することにしました。肝臓の病気を治療する漢方薬に処方される生薬(薬用植物を乾燥した漢方薬の原料)23種を対象としました。肝細胞にて、CD36の遺伝子の発現を最も減少した生薬はクチナシでした。続いてクチナシの構成成分6種を調べた結果、ルチンが最も強くCD36の発現を阻害しました。
ルチンの効果を知るべく、マウスを用いる同様の肝虚血再灌流にて、ルチン投与の有無を比較しました。予想通り、ルチン50 mg/kgを3日間投与したマウスは、非投与群と比べて5大特徴を軽減しました。例えば活性酸素種を除去するSODという酵素の活性は、非投与群で7 U/mgのところ、ルチン投与群は16 U/mgでした。肝臓の鉄濃度は、非投与群で2.2 μmol/gのところ、ルチン投与群は1.4 μmol/gでした。また、ルチン投与群のCD36の発現は、非投与群の40%に減少しました。
以上、ルチンはCD36の発現を減少して、マウスの肝虚血再灌流傷害を軽減しました。肝臓の手術の際には、ルチンが強い味方になりそうです。
キーワード: 肝臓、虚血再灌流傷害、肝機能、活性酸素種、フェロトーシス、鉄、CD36、ルチン