水溶性ケルセチンによる、記憶障害の予防
出典: Journal of Pharmacological Sciences 2026, 160, 199-208
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1347861326000095
著者: Honoka Fujimori, Takuya Ohba, Yoshiki Kuse, Shinsuke Nakamura, Hiroaki Kida, Takeshi Okada, Naoto Yamaguchi, Hideaki Hara, Masamitsu Shimazawa
概要: この連載で再三述べているように、ケルセチンには記憶障害を改善する働きがあります。それにも拘らずケルセチンは水に溶けにくいため、実用化に至っていません。水に溶けていないケルセチンを腸が吸収するのは困難で、働きを発揮しないまま排出され体を素通りします。ケルセチンが水溶性を獲得すると、働きが強化されるのか?という疑問は当然生じます。今回の研究では、記憶障害のマウスを用いて、従来のケルセチン配糖体とユビオケルセチン®との比較がなされました。ユビオケルセチン®とは最近開発された、ケルセチンを水溶性に改良した素材です。
マウスの記憶障害は、新奇探索試験という実験で評価しました。マウスには初めて見る新しい物に興味を示す習性があり、その好奇心ゆえ「新規」ではなく「新奇」と表記します。まず2種類の物体を箱に入れ、15分間マウスを自由に行動させます。24時間経過した後、脳神経を損傷する毒物を投与して、記憶障害を誘発しました。その1時間後に、片方の物体を別の物体と置換えて再び箱の中の行動を観察します。1日前の記憶が正常であれば、以前からあった物体と新しい物体とが識別できますので、習性に従って新しい物体に近づく時間が長くなります。物体に寄った総時間で新しい物体の占める割合をもって記憶障害を評価します。今回は治療効果ではなく予防効果を検証する実験ですので、予めケルセチンを1週間投与した後に新奇探索試験を行いました。薬物投与なし、ルチン(ケルセチンに糖が2個結合した配糖体)、ユビオケルセチン®、ドネペジルの4種類の投与を試しました。ユビオケルセチン®群とルチン投与群は、低用量(3 mg/kg)と高用量(10 mg/kg)の2群に分けました。従って、全部で6群に分けたことになります。なお、ケルセチンとは関係のないドネペジルとは、アルツハイマー病の治療薬として20年以上の販売実績のあるロングセラーです。必ず効果があるサンプルとして使用するので、実験の妥当性を示す目的です。これとは別に、試験中に毒物を投与しないマウスも用意して、正常群としました。
正常群のマウスが示した、新しい物体が占める割合は60%でした。非投与群は52%に低下し、すなわち物体に寄った時間に差がなく、神経毒による記憶障害が示唆されました。非投与群と比べて顕著な予防効果を示したのは、確実に効果のあるドネペジル群とユビオケルセチン®群の高用量のみでした。両群とも正常群と同等の60%を示し、神経毒を投与しても正常な記憶力を維持しました。ルチン投与の2群とユビオケルセチン®群の低用量はいずれも55~57%であり、予防した傾向は認めても、非投与群と比較して有意とは言えないレベルでした。ゆえに、予防効果はないと結論しました。
ユビオケルセチン®群の高用量は、既存薬であるドネペジルと同等に記憶障害を予防しました。しかし低用量では効果のない、用量依存性がありました。重要なことに、同じ用量であっても水に溶けないルチンでは効果がなく、水溶性を得て初めて優れた予防効果を発揮できました。
キーワード: 記憶障害、ユビオケルセチン®、ルチン、ドネペジル、新奇探索試験、水溶性