ケルセチンによる特発性肺線維症の予防・前編
出典: Redox Report 2026, 31, 2632434
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13510002.2026.2632434
著者: Yang Qiao, Xie Cheng, Zixin Luo, Weilu Huang, Zheng Zhang, Kangkang Ren, Xinping Xu, Huan He, Ming He, Lu Yin
概要: 特発性肺線維症とは、ガス交換を担う肺胞が傷つき、傷を修復する過程で肺胞の周辺が硬くなる病気です。コラーゲンという骨の主成分が傷の修復時に蓄積しますので、多過ぎた場合は肺が骨の様に硬くなり特発性肺線維症となります。今回の研究では、ケルセチンが特発性肺線維症を予防することをマウスを用いる実験にて明らかにしました。また、ケルセチンによる予防の仕組みも、その一部が解明されました。
ブレオマイシンという癌の薬は強い肺毒性があり、特発性肺線維症のような症状を誘発することが知られており評価モデルとしました。ケルセチンを先に投与してブレオマイシンの影響を調べる特発性肺線維症の予防効果と、薬物の順序を逆にした治療効果の両方を検証すべく実験を組みました。マウス20匹を5匹ずつ4群に分け、1) ブレオマイシンを投与しない正常群、2) ブレオマイシンのみ投与するケルセチン非投与群、3) 先にケルセチンを投与して後にブレオマイシンを投与する予防群、4) 3)とは逆に投与する治療群としました。3)と4)におけるケルセチンの投与期間は28日間としました。特発性肺線維症の直接の指標である、肺組織のコラーゲンの蓄積量を比較しました。正常群のコラーゲン量を1.0とした時の相対比は、非投与群: 1.8、予防群: 0.9、治療群: 0.9となりました。ブレオマイシンの悪影響として、肺が硬くなる特発性肺線維症の症状は顕著でしたが、ケルセチンの前投与も後投与も同等に正常化しました。少なくともコラーゲンを指標にする限り、ケルセチンによる予防効果と治療効果は等しいことを意味します。
次に、フェロトーシスという鉄が媒介する細胞死を比較しました。冒頭に述べたように、そもそもの特発性肺線維症の原因は肺胞が傷つくことであり、フェロトーシスは重要な要素です。まず肺組織の鉄濃度ですが、正常群: 2.5 ng/μL、非投与群: 7.0 ng/μL、予防群: 2.8 ng/μL、治療群: 5.1 ng/μLでした。正常群と非投与群に大きな差があるのは当然ですが、予防群は正常群に近く、治療群に非投与群に近い事実に注目したい所です。次にフェロトーシスが起きると発現する遺伝子であるPTGS2に着目しました。いわば、フェロトーシスがまさに起きている状態の指標です。正常群における発現量を1.0とした時の相対比は、非投与群: 7.2、予防群: 2.1、治療群: 3.9でした。よって、予防群は正常群に近く、治療群に非投与群に近い現象はPTGS2にも見られました。最後に、フェロトーシスを阻害する蛋白質であるGPX-4の発現の相対比を調べ、正常群: 1.00、非投与群: 0.55、予防群: 0.98、治療群: 0.53という結果でした。GPX-4に至っては、予防群イコール正常群、治療群イコール非投与群の関係が成立しています。
以上の結果、フェロトーシスを指標にする限り、ケルセチンによる特発性肺線維症の予防効果は、治療効果よりも優れていると結論できました。後編に続く
キーワード: 特発性肺線維症、ケルセチン、ブレオマイシン、予防効果、治療効果、コラーゲン、フェロトーシス