ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンによる特発性肺線維症の予防・後編

出典: Redox Report 2026, 31, 2632434

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13510002.2026.2632434

著者: Yang Qiao, Xie Cheng, Zixin Luo, Weilu Huang, Zheng Zhang, Kangkang Ren, Xinping Xu, Huan He, Ming He, Lu Yin

 

前編より続く

概要: 前編では、ケルセチンによる特発性肺線維症の予防効果が明確に示されました。これを受けて、予防の仕組みの解明に移ります。実験には、肺胞の働きの中心となる肺胞上皮細胞MLE-12を用いました。MLE-12細胞をブレオマイシンで刺激して挙動を調べ、マウスの実験で起きた現象をミクロレベル(細胞レベル)で再現しました。

マウスの時と同様に、MLE-12細胞に1) ブレオマイシンもケルセチンも加えない、2) ブレオマイシンのみ加える、3) 先にケルセチンを加え後にブレオマイシンを加える、4) 3)とは逆の順序で加える、4通りの処置を施しました。マウスで予防群イコール正常群、治療群イコール非投与群の関係であったフェロトーシスの阻害蛋白質のGPX-4を調べました。相対比として、1) 1.00、2) 0.65、3) 0.82、4) 0.58という結果でした。ゆえに、マクロ(マウス)とミクロ(MLE-12細胞)の両方で、GPX-4は同じ挙動を示したことになります。

GPX-4の挙動の一致は偶然ではないと考えて、さらに深堀りしました。MLE-12細胞にケルセチンを加えた時、細胞内の活性酸素種が僅かに上昇しました。ケルセチンは抗酸化作用がありますので、ケルセチンは殆どの細胞にて活性酸素種を除去します。その結果、細胞内の活性酸素種は低下します。たとえ僅かとは言え、ケルセチンを加えて活性酸素種が上昇したMLE-12細胞は非常に珍しい例です。ケルセチンよりも強力な抗酸化作用を持つMito-TEMPOという物質に着目して、MLE-12細胞にケルセチンと同時に加えました。すると、活性酸素種は上昇も低下もせず、一定でした。また、Mito-TEMPOを単独で加えたMLE-12細胞でも活性酸素種が一定でした。従って、ケルセチンが僅かに上昇した活性酸素種は、Mito-TEMPOが除去したと結論しました。

今度は、ケルセチンとMito-TEMPOに関する4通りの処置をMLE-12細胞に行いました。ただし、加える順序はなく、1) 両者とも加えない、2) ケルセチンのみ加える、3) Mito-TEMPOのみ加える、4) 両者を同時に加える、の4処置となります。GPX-4の発現が増加したのは2)のみで、約30%の上昇が観察されました。他の3通りでは、GPX-4の発現量は一定のままでした。従って、GPX-4の増加には、ケルセチンが僅かに上昇した活性酸素種が必須不可欠でした。Mito-TEMPOで除去してしまうと、GPX-4を増加しなくなります。

全編で述べたように、GPX-4とは鉄が媒介する細胞死であるフェロトーシスに抵抗する蛋白質です。ブレオマイシンによる特発性肺線維症ではフェロトーシスが多発していましたが、ケルセチンによる予防効果はGPX-4によるフェロトーシスへの抵抗と理解できました。MLE-12細胞でケルセチンが上昇した活性酸素種によるGPX-4の増加こそが、特発性肺線維症を予防した仕組みでした。

キーワード: 特発性肺線維症、ケルセチン、ブレオマイシン、MLE-12細胞、活性酸素種、GPX-4