ケルセチンは何故うつ病に効くのか・その1: 腸内細菌叢との関係
出典: Frontiers in Pharmacology 2024, 15, 1362464
https://www.frontiersin.org/journals/pharmacology/articles/10.3389/fphar.2024.1362464/full
著者: Bozhi Li, Yuqi Yan, Tiange Zhang, Hanfang Xu, Xiaofeng Wu, Gaolei Yao, Xingze Li, Can Yan, Li-Li Wu
概要: 腸内細菌叢とは、腸に生息する細菌類の分布です。細菌には、健康に有益な善玉菌、反対に健康に害を及ぼす悪玉菌、健康には影響がない日和見菌の3種類があるため、腸内細菌叢は健康状態を反映します。今回の研究では、ケルセチンがうつ病を改善し、腸内細菌叢との関連も示されました。
ラットに予測不可能で慢性的な軽度ストレスを継続して与え、うつ病を誘発しました。12時間の絶食、飲料水を12時間撤去、体の拘束12時間、湿った寝具に10時間晒す、混み合った場所に10時間入れる、夜中に1分あたり300回の遮断光の5時間続けて晒す、85デシベルの騒音に5時間晒す、45℃の水に5分間放置、4℃の水に5分間放置、5分間に10回の電気ショックを足に施す…この様なストレスを1日1件、同じ種類は繰り返さないで8週間継続して与えました。ラットは3グループに分けて、以下の処置を行いました。1) ストレスを与えない正常群、2) ストレスのみ、3) ストレスを与え、ケルセチン50 mg/kgを毎日投与。8週間の処置の終了後に強制水泳試験を行い、うつ病の度合いを比較しました。6分間の試験時間中の静止時間の平均は、1)が65秒、2)が150秒、3)が80秒でした。また、うつ病の特徴として、本来好きな物に関心がなくなる点が挙げられます。砂糖水と普通の水を用意しておき、一定時間にどちらの水を飲むかを調べました。この実験はショ糖(砂糖)嗜好性試験と呼ばれ、甘いものが好きなラットの習性を利用します。砂糖水を選んだ割合は、1)では78%で、2)では45%に減少し、3)は65%でした。従って、諦めと嗜好性の両方の観点から、予測不可能で慢性的な軽度ストレスがラットにうつ状態を誘発し、そのうつ状態は、ケルセチンの投与で改善されたことが実証されました。
次に、腸内細菌叢を調べました。うつ病の2)は、正常の1)に比べてファーミクテス門が増大し、バクテロイデス門は減少していました。ケルセチンを投与した3)の腸内細菌叢は1)に近いことが分かりました。従って、ストレスでうつ病になると腸内細菌叢が変化しますが、ケルセチンを投与すると変化が少ないことを意味します。
そこで、うつ状態と腸内細菌叢に関連があるのかを検証しました。うつの指標には、強制水泳試験における静止時間とショ糖嗜好性試験の砂糖水を飲んだ割合を合計したスコアを用いました。なお、今までは各グループの平均値で議論しましたが、今度は個々のラットのデータを精査しました。その結果、うつの指標が増えると、存在が増える菌種が2種類見つかりました。2つともファーミクテス門に属しており、うつ状態と腸内細菌叢とは関連があることを示唆しています。ゆえに、ケルセチンがうつ病に効く理由の一つに、腸内細菌叢の改善が挙げられます。
キーワード: うつ病、ケルセチン、ストレス、強制水泳試験、ショ糖嗜好性試験、腸内細菌叢