ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

ケルセチンは何故うつ病に効くのか・その3: 視床下部への働きかけ

出典: CNS Neuroscience & Therapeutics 2024, 30, e14724

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cns.14724

著者: Mingyan Wang, Xin Wei, Yugai Jia, Chaonan Wang, Xinliu Wang, Xin Zhang, Depei Li, Yuanyuan Wang, Yonggang Gao

 

概要: 視床下部とは、間脳の中に存在して自律神経をコントロールする働きをします。よく言われるように、心理的ストレスや身体的ストレスは自律神経の乱れにつながります。ストレスと自律神経との深い関係に着目して、ストレスが誘発したうつ病が視床下部に及ぼす影響を検証したのが、今回の研究です。ケルセチンが視床下部に働きかけた結果、うつ病を改善することが明らかになりました。

ラットを1) 正常群、2) うつ病群、3) うつ病+ケルセチン投与群の3群に分けました。2)と3)には予測不可能で慢性的な軽度ストレスを4週間継続して与え、並行して3)にケルセチン60 mg/kgを毎日投与しました。期間終了後に強制水泳試験を行い、うつ病の状況を比較しました。2分間の試験時間中の静止時間の平均は、1)が10秒、2)が50秒、3)が12秒でした。水中から助かろうと手足を動かす習性がありますが、うつ状態にあると諦めて静止しがちなことが2)で示されました。3)の静止時間の短縮は、ケルセチンによる改善効果を物語っています。また、オープンフィールド試験という不安感を評価する実験も行いました。縦横が80 cmで周囲に40 cmの壁がある箱にラットを入れて、行動を調べます。ラットには新しい環境に探索する習性があるので、中央ゾーンを歩き回りますが、うつ状態で不安感があると壁に張り付きます。5分間に中央ゾーンを横切った回数は、1)が9回、2)が3回、3)が8回でした。この結果は、うつ病の特徴である不安感により自発的な行動が減少しましたが、ケルセチンの投与で悪影響を改善したことを意味します。従って、ケルセチンの投与が、ストレスに起因するうつ病を改善したことが、明確に示されました。

次に、ラットの視床下部を調べたところ、α2δ-1とNMDARという2種類の蛋白質に大きな変動が見られ、うつ病になると大きく上昇していました。前者は1)の2倍量が2)で観察され、後者に至っては7倍になりましたが、いずれも3)では1)と同等の量でした。しかも、2)ではα2δ-1とNMDARとが結合して存在していました。この2つの蛋白質が結合すると、神経に悪さをすることが知られています。実際、この結合体は、痛覚過敏や外傷性脳損傷で発見されていますが、うつ病における存在は今回が初めての報告となりました。

視床下部にてケルセチンは、α2δ-1とNMDARを作らせない働きが明らかになりました。その結果、神経に悪影響を及ぼす結合体を作りにくくしました。よって、予測不可能で慢性的な軽度ストレスが4週間継続しても、うつ病が改善されました。ストレスの多い社会を生きるには、ケルセチンを多く含む玉ねぎやリンゴを摂って、うつ病を遠ざけましょう。

キーワード: うつ病、ケルセチン、ストレス、強制水泳試験、オープンフィールド試験、視床下部