ケルセチン・フラボノイド 論文・文献データベース

心房細動を併発した非アルコール性脂肪肝疾患の治療における、ケルセチンの役割

出典: Gastroenterologìa 2024, 58, 102–108

https://gastro.zaslavsky.com.ua/index.php/journal/article/view/602

著者: O. B. Teslenko, S. V. Fedorov, M. V. Bielinskyi, A. S. Herashchenko, N. B. Nyshchuk-Oliinyk

 

概要: 心房細動とは不整脈の一種で、心臓の一部である心房が小刻みにけいれんする状態です。心房細動に罹ると、動悸・めまい・息苦しさの症状があります。非アルコール性脂肪肝疾患(以下、NAFLD)とは、文字通り、お酒が原因でない脂肪肝の総称です。NAFLDは典型的な生活習慣病で、肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症をしばしば併発しますが、心房細動の発症確率が高まるのもNAFLDの特徴です。反対に心房細動は、NAFLDの病状を悪化することも知られています。今回の研究では心房細動を伴うNAFLDにて、ケルセチンの補助的な治療効果がヒト試験で実証されました。

心房細動を併発したNAFLD患者127名を、ランダムに3群に分けました。42名を標準治療群として、生活習慣の改善して節制しビタミンEを摂取する、従来の治療法のみ行いました。43名は標準療法に加えて、ウルソデオキシコール酸というC型肝炎の治療薬の服用を追加しました。残る41名は標準療法に加えて、ウルソデオキシコール酸とケルセチンとの組合せの摂取を追加しました。残念ながら、ウルソデオキシコール酸とケルセチンの摂取量は記載がありませんでした。治療期間は3か月とし、終了後に肝機能の検査を行いました。

普段の健康診断と同様に、血液中のALTとASTの濃度を肝機能の指標としました。ALTとASTは本来、肝臓に存在してアミノ酸を作る働きをする筈の酵素ですが、肝組織が破壊されると血液に流れ出して、血中濃度が上昇します。ALTもASTは両方とも、治療によって大幅に低減して、肝機能が改善されました。しかし、その程度には3群間で差がありました。ALTは22.98、32.60、39.89%の減少であり、ASTは6.53、13.17、19.99%の減少でした。従って、標準治療群 < ウルソデオキシコール酸追加群 < 組合せ追加群の順番で、肝機能が改善されました。

NAFLDの原因は肝臓での脂肪の蓄積ですので、結果として血中の「悪玉コレステロール」と呼ばれるLDLが上昇します。ゆえに、血中のLDL濃度の低減も、NAFLDの改善指標となります。治療によるLDLの変化は、標準治療群: 2.61%増加、ウルソデオキシコール酸追加群: 12.46%減少、組合せ追加群: 18.16%減少でした。標準治療群は反って悪化し、他2群で効果がありましたが、標準治療群 < ウルソデオキシコール酸追加群 < 組合せ追加群の順番は一緒でした。

最後に、ガレクチン-3というNAFLDと心房細動に共通する指標をの変化を調べました。ガレクチン-3は、肝組織を線維化するため肝機能の低下につながり、心臓病になると心筋内で急激に増加することが知られています。治療によりガレクチン-3は3群全てで減少しました。その度合いは、標準治療群: 13.11%、ウルソデオキシコール酸追加群: 25.03%、組合せ追加群: 28.64%というデータを得ました。併発している心房細動の改善においても、効果の順番は変わりませんでした。

以上の結果、心房細動を併発したNAFLDの治療においてケルセチンは、効果を増強する補助的な役割があることが明確になりました。

キーワード: 心房細動、非アルコール性脂肪肝疾患、ヒト試験、ウルソデオキシコール酸、ケルセチン、肝機能